引退名馬繋養展示事業

2004年07月06日(火) 21:08

 財団法人・軽種馬育成調教センター(略称BTC)の発行する「BTCニュース」2004年第56号(7月1日発行)に、平成16年度の引退名馬繋養展示事業の対象馬が一覧表で掲載されている。

 この事業は、かつて中央競馬で活躍し、多くのファンを魅了した名馬たちを功労馬として繋養・展示している個人や団体に助成金を交付するもので、月々の助成額は3万円。交付の条件は、中央競馬のGレースを勝っていること、そしてすでに繁殖登録を抹消し文字通り“引退”していること、などが挙げられる。

 同誌によれば、6月1日現在の助成金交付対象馬として、北海道から鹿児島まで全国に106頭おり、そのうち北海道内では74頭が繋養されている。

 北海道内で繋養されている74頭の中で、自分の生まれ故郷に帰って余生を送っているケースは29頭。それ以外は、生まれ故郷以外の場所で繋養されているということになる。

 74頭は、ほとんどが胆振、日高の軽種馬主要生産地に分布しているが、稀に道東の別海町(リードホーユー、1980年生まれ、83年有馬記念優勝馬、野付ライディングファームにて繋養)や、富良野市(スズカコバン、1980年生まれ、85年宝塚記念優勝馬、江見洋一氏繋養)、恵庭市(マイネルブリッジ、1992年生まれ、95年NHK杯優勝馬、すずらん乗馬クラブにて繋養)、北広島市(スガノオージ、1991年生まれ、95年毎日王冠優勝馬、北広島乗馬クラブにて繋養)などの例もあり、競馬や生産とはあまり接点のなさそうなところでも余生を送る名馬がいるようだ。

 上記4頭以外はすべて胆振、日高で繋養されており、繋養先はまさしく多岐にわたる。日高ケンタッキーファームや浦河にある「優駿ビレッジ・アエル」などの観光施設もあれば、(有)エクセルマネジメント(旧名、えりも農場)や日高シルバーホースファームなどの、事業として功労馬の養老牧場も行っている施設もあり、また、生産馬を自らの牧場で引き取って余生を送らせる牧場もある。前述したように、無事生まれ故郷に帰り着いた29頭の名馬たちは全体から見ればやはり「ほんの一握り」ということになろう。

 74頭の名馬たちを順次紹介するにはスペースが足りないので詳細はBTCのHPを参照していただきたい。ここでは私の牧場の近くにいる功労馬について少しだけ触れることにする。

 まず、お隣の渡辺牧場には、現在この助成金を受けている名馬が3頭いる。ナイスネイチャとセントミサイル(ともに同牧場の生産馬)、そして今回初めて知ったがコーセイ(牝、1984年生まれ、89年中山記念優勝馬)もここで繋養されているようだ。もう1頭は小柳牧場にいるラッキーオカメ(牝、1982年生まれ、86年北九州記念優勝馬)である。私事ながら、毎年この時期以降9月頃までの間に、私宅に「ナイスネイチャはこちらにいますか?」と競馬ファンが時々迷い込んでくる。いくら隣の牧場とはいえ、直線距離にするとざっと400メートルほどは離れているので、迷い込む方も大変だろうと考え、先月私宅前の路肩に手作りの看板を立てた。田舎ならばともかくも、都市部で生活する人にとって400メートルの距離はほとんど「隣町」に行くような感覚だろう。競馬ファンの方々になるべく無駄な手間を取らせないようにするのも、一つのファンサービスなのかも知れない。

 さて、一覧表で紹介されている74頭中、最高齢の馬は、1977年生まれのネオキーストン(82年、福島記念)、アンバーシャダイ(81年、有馬記念)、オペックホース(80年日本ダービー)、ケイキロク(80年オークス)、ポリートウショウ(80年クイーンC)の5頭。満年齢で27歳。シンザンの長寿記録に迫る名馬が出てくることを期待したい。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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