きさらぎ賞をめぐるライバル関係

2016年02月06日(土) 12:00


 今週のきさらぎ賞は、2013年のセレクトセールで2億4150万円で落札されたサトノダイヤモンドと、2億5200万円のロイカバードによる、2度目の「5億円対決」が話題になっている。

 きさらぎ賞をめぐるライバル関係というと、1996年に勝ったロイヤルタッチ(父サンデーサイレンス、栗東・伊藤雄二厩舎)と、2着のダンスインザダーク(父サンデーサイレンス、栗東・橋口弘次郎厩舎)が思い出される。ちょうど20年前のことだ。

 時はそこからさらにふた月ほどさかのぼり――。

 95年12月3日、ロイヤルタッチは阪神第5レース、芝2000メートルの旧3歳新馬戦で、ダンスインザダークはひとつ前の第4レース、芝1600メートルの旧3歳新馬戦で、どちらも武豊騎手を背にデビューし、勝利をおさめた。

 デビューした時期や能力、陣営の期待度、距離適性などが近ければ、当然、その後のローテーションが重なってくる。

 2頭はともにラジオたんぱ杯3歳ステークスに進み、オリビエ・ペリエ騎手のロイヤルタッチが勝ち、武騎手のダンスインザダークは3着に敗退した。なお、2着に割って入ったのは、翌春の皐月賞を勝つ四位洋文のイシノサンデーだった。

 2頭の年明け初戦も同じきさらぎ賞となり、勝ったロイヤルタッチは戦績を3戦3勝とする。若葉ステークス2着を経て、1番人気で臨んだ皐月賞は2着、2番人気のダービーは4着、6番人気だった菊花賞は2着。翌97年のジャパンカップで11着に敗れたのを最後に引退したので、結局、きさらぎ賞が最後の勝利となった。

 一方のダンスインザダークは、4戦目の弥生賞を勝つも、皐月賞は熱発で回避。ダービーではフサイチコンコルドの2着に惜敗し、菊花賞でGI初制覇を遂げる。

 きさらぎ賞まではロイヤルタッチのほうがいい成績をおさめていたのだが、ここを境に逆転し、差がついてしまった。その差は種牡馬となってからさらにひろがり、ロイヤルタッチの産駒でJRAの重賞を勝ったのはアサヒライジングだけなのに対し、ダンスインザダークは、ツルマルボーイ、ザッツザプレンティ、デルタブルース、スリーロールスと4頭のGI馬を送り出したほか、ラブリーデイの母の父となるなど、その血をしっかり後世につなげている。

 ――サラブレッドの将来ってわからないものだし、怖いものだな。

 この季節、きさらぎ賞の過去の勝ち馬一覧を眺めるたびにつくづくそう思わされてきた。

 しかし、6年前の夏、私にとって、ちょっとしたサプライズがあった。

 10年7月28日、ロイヤルタッチ産駒のカキツバタロイヤルが、大井のサンタアニタトロフィーを勝ったのである。この勝利は、カキツバタロイヤルにとって南関東重賞初制覇であったと同時に、管理する船橋の函館一昭調教師にとって、開業29年目にして初めての重賞制覇であった。

 函館調教師は、1932年に行われた第1回日本ダービーをワカタカで制した初代ダービージョッキー・函館孫作の孫である。

 競馬史に関するものを書くことの多い私は、孫作について、同師から話を聞かせてもらったことがあり、それもあって、この勝利は格別嬉しかった。

 カキツバタロイヤルは、昨年、浦和の埼玉新聞栄冠賞で3年半ぶりの勝利を挙げ、10歳になった今年も現役をつづけている。

 スペシャルウィーク、ナリタトップロード、ネオユニヴァースなど、競馬史に残る名馬が勝ち馬に名を連ねる、このきさらぎ賞。個人的には、贔屓のスマイルジャックと、先日ホーストラスト北海道で見てきたヤマニンキングリーが08年に鼻差の2、3着となり、以降、何度もすぐ近くでゴールするライバルとなった発端のレースでもある。

 今年の主役2頭、サトノダイヤモンドとロイカバードの5億円対決は、どんな結果になるのだろうか。ロイヤルタッチとダンスインザダークのように、最初に勝ったほうが勝ちつづけるのだろうか。そして、ここを境に、2頭はどんな競走生活を歩むことになるのか――楽しみだが、先述したような怖さもある。が、この怖さがあるからこそ、面白さも夢も大きくふくらむのが競馬というものだ。

 勝つのは1頭。ということは、サトノダイヤモンドかロイカバードのどちらかは負けるわけだ……と考えて、怖さと楽しさを増幅させながら、予想のつづきをしよう。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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