振り向くな、振り向くな

2016年02月25日(木) 12:00


フェブラリーSを制したモーニンの姿

 寺山修司の「さらばハイセイコー」の中に「振り向くな、振り向くな、後ろには夢がない」という名言が出てくる。この詩は、一世を風靡した名馬を介して競馬への望郷の念をうたったものだが、一歩踏み出したいときの支えになる言葉だ。「振り向くな」、正にこれから王道をめざす新星にはぴったりくる。

 ダート界に世代交代を告げるモーニンの勝利は、衝撃的だった。今後、モーニンがどう戦っていくか、ただただ、わが道を切り開く姿を見ていきたい。デビューすら危うかった米国産馬が、7戦目、282日目でダートのGI制覇を達成したのだから、ただ者でない。だが、マイルのGIでどうかという思いもあり、暮のチャンピオンズCで2着と追い込んだノンコノユメの方が一番人気。同じ4歳馬だったが、東京のダート1600米が5戦4勝で武蔵野Sではモーニンを下しているのだから、こうなるのも頷けた。歴戦の古豪たちの実績も無視できないが、今年は世代交代ムードが高まり、その勢いに押されていた。

 こうした押せ押せムードに乗った感のあった4歳馬の1、2着で新時代の到来を告げたフェブラリーSだったが、勝ったモーニンの方は、明らかにパワーアップした姿を見せていた。攻め馬で抑えるのが難しくなっているという手応えから、これでスムーズに走ることが出来たらという期待はあった。いつもの如くゆっくりスタートし、走りやすい馬場を先を行く馬群がつくる速い流れが落ちつくと、直ぐ二の脚を使って4番手の外にすんなりとつけた。これは、初騎乗のM.デムーロ騎手の好判断といってよく、直線で伸び脚を繰り出す姿は、明らかにひと皮むけた強さを見せつけていた。ただ、「振り向くな、振り向くな、後ろには夢がない」を見る思いで、この先が見えてくる。

 だが、この日の馬場ならスピードが出るし、モーニンにとっては打って付け、外目の枠から先行するというのが勝ちパターンのコースでもあったから、別の状況になったときにはどうか。2着に追い込んで届かなかったノンコノユメにも、チャンスの目が出てくるのではないか。敗者にも「振り向くな、振り向くな」の声を掛け、一歩踏み出すチャンスをと可能性を探る意味はある。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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