日高管内の生産頭数6508頭

2004年08月17日(火) 19:26

 このほど日高軽種馬農協より「2004年度軽種馬当歳名簿」が発行された。この名簿は、生産者の届け出を元に作成されたもので、記載されている生産馬は今後日本軽種馬登録協会への血統登録を経て、正式に『サラブレッド』(あるいはアングロアラブ)として認定される。従って、厳密に言えば、この名簿における生産頭数と血統登録頭数との間には大きな隔たりが生じることになる。

 さて、今年度の名簿に記載されている生産頭数はサラ、アラ合わせて6508頭。内訳は、サラブレッド6432頭、アングロアラブ76頭で、昨年と比較すると、とりわけアラブの頭数がさらに“激減”した。

 確か、今月下旬で兵庫県競馬組合はアラブ系の競走を廃止することになっているはずで、在厩するアラブ系の馬はすべて今後サラブレッドとの混合戦を余儀なくされると聞いた。単独でアラブの競走体系を組むことが困難になるほどアラブ系在厩馬が減少していることによる措置だというが、我々生産者から見ると、果たして「需要がなくなったから生産頭数が減少した」のか、「生産頭数が減少したからレースが組めなくなった」のかが、どうも判然としないところなのだが…。

 さて、一方のサラブレッド6432頭という数字も、やはり昨年から見ると224頭の減少となり、この傾向は今後もしばらく続くだろう。むしろ、個人的には思ったほどの減少とならなかったことに軽い驚きを覚えている。一昨年と比較しても、469頭の減少にとどまっており、相次いだ地方競馬の廃止を考えると、減少スパイラルがかなり緩やかに見えてくる。

 とはいえ、以前この欄で書いたように、生まれたものの血統登録できずに処分される馬も増えている。昨年10月1日現在で、当歳の血統未登録馬がサラ、アラ合わせて905頭に及んでいることについて触れた(2003年12月10日)が、それらの当歳馬は今年1歳となり、年末の12月31日までに血統登録を済ませなければ競走馬になれない。905頭のうち、果たして何頭がその後無事に血統登録に漕ぎ付けたものか。

 今年はこれをさらに上回る頭数が未登録のまま越年することになるかもしれない。もちろん、その最大のネックになるのが、血統登録の際に必要な「種付け証明書」の入手である。種付け料の支払いと引き換えに発行される種付け証明書がなければ血統登録は不可能で、この種付け料の捻出に頭を痛める生産者が少なくない。毎年順調に出産し、産駒が販売できてこそ初めて生産のサイクルが回転するわけだが、どこかで躓くと途端に資金繰りが悪化してしまう。仮に5頭のサラブレッドを生産しても、牝馬が4頭もいたりすると、かなり厳しい経営状態に追い込まれることになる。

 先に開催されたサマーセールでも、とりわけ牝馬の売却率の低さと価格の安さが目立った。売れても種付け料を引いたらチャラになるような落札馬も多かった。

 しかし、それでもなお軽種馬生産に「こだわり」を持つ生産者が少なくないのもまた事実で、日高管内の生産頭数が「微減」にとどまっている大きな原因がここにあるのだろう。たとえ、複合経営の導入により経営の軸足を他の農作物にシフトしても、「生産からまったく足を洗うのも寂しい」とばかりに、細々とサラブレッド生産を続ける人がいるのも日高の“現実”なのである。

 よほどの名血ならばいざ知らず、見たところごく普通のサラブレッドが1頭もしくは2頭程度の生産頭数しか記載されていない生産牧場もかなりある。そういうところはおそらく生産牧場としての収益だけで経営を続けることは難しく、何らかの複合経営を導入しているか、もしくは他に仕事を持っているかのどちらかだろう。

 日高の軽種馬生産の黎明期には、複合経営から馬産に手を染める牧場がほとんどだった。それが高度経済成長と競馬ブームにより急速に軽種馬生産に特化して行ったのが昭和40年代のこと。しかし、またここへきて以前のように、徐々に複合経営へ移行する牧場が増えてきているのは何とも皮肉な現象だ。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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