新しい意欲

2016年04月07日(木) 12:00 10


大阪杯を制したアンビシャスについて

 人生を旅路にたとえることがある。ひとつの峠を越えてほっと息をついたら、また次の峠が待っていて、それを越えると次にまたあって、とめどもなく続いて果てしない。峠から峠に移る旅路かな、どこかで読んだことがあった。味わい深いこのことばをさらに深読みしていくのも面白い。この峠にはさまざまな人生が織りこまれていて、その景色は、その時どきの自分を思い出させてくれる。元気で歩めるだけ歩んでいたときの旅路の背景には、若葉の峠があった。新しい意欲をおぼえさせてくれるのだ。思わぬ暖かい日射しにこころが弾み、歩を早めていく。この先にある夢をつかもうと。ちょうど、春、重賞競走に自らの命運をかけている馬たちと同じだ。

 GI馬が5頭も出ていた大阪杯を勝ったアンビシャス、重賞勝ちは3歳時のラジオNIKKEI賞以来で2勝目だが、まさかの2番手につけての戦い方で、いくつかの峠のある中でも、まさに若葉の峠を越え、新たな武器を手に夢に向かっていくことになった。折り合えればいい脚は使えると音無調教師は期待していたが、テン乗りの横山典騎手が望んでの先行策、これはみんながビックリした。4ヶ月ぶりの前走の中山記念では、ルメール騎手が巧く折り合いをつけて上がり3ハロン33秒6、あのドゥラメンテとクビ差の2着と走っていたが、この経験が大きくプラスしていたに違いない。一度気分よく走れていたことで、スローペースの大阪杯でもきちんと2番手でキタサンブラックを見ることができていた。もちろん最後の競り合いでは、56キロ対58キロという斤量差が有利に働いていたし、昨秋は長い距離ばかり走ってきた菊花賞馬キタサンブラックにとり二千米は有利ではなかったろう。だが、これからGI戦線に打って出ようというアンビシャスにとり、ここで賞金を加算できたのは大きい。長い旅路で越えなければならないいくつかの峠がある中で、はっきり、新しい意欲をおぼえる暖かい日射しの中の若葉の峠を越えたのだった。

 この先にはっきりGIという目標を持つ馬たちの仲間入りを果たしたアンビシャスだが、それにしても今年の重賞戦線は、牝馬を除き圧倒的に4歳世代が勝ってきた。この傾向が、今後どうなっていくか、興味がふくらむ。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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