台風16号北上

2004年08月31日(火) 20:29

 しばらく晴天が続き、二番牧草の収穫も順調に推移していたが、またもや台風が北海道を直撃する事態となった。8月31日の正午前後にどうやら函館方面へ台風16号が上陸しそうな気配である。日高地方も、31日朝から風雨が強まり、ピークは昼過ぎから夕刻にかけての時間帯だという。昨年未曾有の大被害をもたらした、台風10号の記憶が蘇ってくる。

 風雨が強まると、当然放牧は中止となり、馬たちは厩舎で過ごすことになるのだが、本来、馬は戸外で群れて生活する動物であり、厩舎に閉じ込めたままの状態ではかなりストレスが溜まる。トレセンでも月曜全休の翌朝(つまり火曜日)に、もっとも事故率が高いらしく、それも無理からぬ話だと日々馬に接していて思う。とりわけサラブレッドは、神経質で気難しい。

 ところで日高地方は海岸線に沿っていくつもの川が太平洋に注ぎ、その川の流域ごとに集落が形成されている。大小さまざまな河川の両岸に広がる土地で牧場を営む例が少なくないので、こんな台風直撃の時には絶えず雨量と川の増水状況に注意を払わなければならない。私事ながら我が家の敷地内にも二級河川絵笛川が流れており、狭い川なので一気の増水には要注意だ。昨年の台風10号の折りには、雨雲が西側に数十キロほど逸れたため辛うじて難を逃れたが、だいたいがほとんど台風の直撃しない地域である。大雨に脆いことを昨年改めて痛感させられたばかり。とにかく恐怖感が募る。

 この原稿を打ち込んでいる間に、午後2時(31日)、台風は苫小牧市付近に再上陸したとテレビが報じていた。日高はすっぽりと暴風圏内に入り、風雨ともにピークに達している。先ほど娘たちの通う小中学校から連絡があり、午後の授業をとりやめて児童生徒を下校させることになったので、迎えに来て欲しいと言ってきた。折りたたみ傘など簡単に風に吹き飛ばされるほどの強烈な風、そして横なぐりの雨。ここ数年間ではもっとも荒れた天候となっている。

 牧場というのは、敷地面積が広いのもさることながら、建造物もまた多い。私の牧場など、至って零細規模だが、それでも厩舎が3棟、住宅2棟、倉庫2棟など建っており、それらの見回りも必要だ。強風でシャッターが飛ばされたこともあったし、敷地内の排水溝が詰まり、一面湖のようになったことも過去何度かあった。田畑で直接作物を栽培しているわけではないが、警戒は怠れない。

 台風16号は時速70キロほどの速度で北東に進んでいるという。台風に向かって南から湿った空気が大量に北上しているため、この時期としてはひどく蒸し暑い。せめて雨だけでも夕刻までに止んで欲しいところだ。夜間になり、あたりが暗くなってからの風雨は恐怖感も倍増する。昨年の台風10号は、まさしくそんな状況下で厚別川の水位が急激に増え、大災害をもたらした。厩舎の中から突然押し寄せた濁流に呑まれ、流される恐怖感はどれほどのものだったか、と改めて思う。

 それにしても、苫小牧周辺から上陸し、北海道を縦断してオホーツク海へと抜けるような(しかも勢力を保ったまま)台風がかつてあっただろうか?のみならず、沖縄から九州四国を皮切りに、本州そして北海道と、まるでいやがらせのようなコースを辿った今回の台風。まさしく「当たり年」である。こんな気候でも、旭川競馬場では今夜もナイター競馬を開催する予定とのこと(9R以降中止となった)。「こっちは雨風ともにそれほど強くないので大丈夫です」と北海道競馬事務所は強気の発言だが、果たして本当に“大丈夫”だろうか?ともあれ、テレビから目が離せない。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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