解放された自由な姿

2016年05月12日(木) 12:00


自分のスタイルでの勝利

 居心地がいいも悪いもなく、ただ気楽にその場にいる、自分が動きやすいように妨げるものや邪魔するものもなく、そういう場がつくれたときに本当の自由がある、そういう気がする。だが、多くがなにがしかに所属しているから、自分の位置を意識せざるを得ず、周囲に囚われて生きている。他との関係なくしては有り得ないのが現実だ。仕方がないから、少しでも自分でいられる時間を工夫してつくっている。誰からの制約も受けず、思いのままの自分がある時間を。そのひとつに競馬は存在しているから、そこにいるときの思いは特別だ。思う存分でいいのだから、本当の自由を満喫できる。時折、自在に走る馬に我を忘れて興奮することもある。

 そんな一場面で、逃げ切りというシーンは、一際、心をさわやかにしてくれる。それが願ったものであれば、尚更だ。NHKマイルカップ史上4頭目の牝馬の勝利を演じたメジャーエンブレムの逃げ切りは、多くが願ったものではなかったか。2月のクイーンカップで古馬を凌ぐ開催No.1の時計で逃げ切った圧巻の勝利は、当然、桜花賞につながると信じさせるものだった。それがあの不完全燃焼、多くがあれは彼女のレースではないと思った。だから、NHKマイルカップでも一番人気に支持していた。もっと自由に、自分のスタイルを貫いてくれと切望しての結果だった。

 田村調教師は「彼女は男まさりの女の子だ」とその強さを信じていた。今年、これまでのGI戦で5回騎乗して2着1回、3着2回と勝利まであと一歩が続いていたルメール騎手にとっても、3度の一番人気に応えられなかった無念は大きかったろう。負けられない、それにはあくまでの自分のスタイルでと、その決意はかたかった。この馬のペースと言っても、他馬にとっては速い。追い掛ける方が苦しくなり、2着も3着も末脚を生かした馬だった。

 田村調教師はひと言、「この馬は強いんです」と述べ、ルメール騎手は「完璧なレース」とその逃げ切りのシーンを振り返っていたが、見る側には、妨げるものや邪魔するものがない解放された自由な姿を満喫させてくれた。こういうときの競馬場は、居心地がいい。だが、馬にとっては本当の自由はその一瞬だから、辛い。

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長岡一也

ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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