2004年09月21日(火) 13:07
9月13日からスタートした『キーンランド・セプテンバーセール』。27日までのロングランセールは現在も開催中だが、既に終了したセレクトセッションの分析を行ってみたい。初日・2日目のセールは、455頭が上場されたうち349頭が売却。総売り上げが前年比14.8%アップの1億5064万ドル、平均価格が前年比11.5%アップの431,656ドル、中間価格が前年比13%アップの260,000ドル、前年28.6%だったバイバックレートが今年は23.3%と、全ての数字が上を向く盛況に終わった。
好調の要因は、相変わらず地元のバイヤーたちが強かったのに加えて、サラトガやドーヴィルではほとんど沈黙を守ったドバイのマクトゥーム家が、ここでは極めて旺盛な購買意欲を見せたことに尽きると思う。三男のシェイク・モハメドが代理人のジョン・ファーガソンを通じて2日間に落とした金額は、2995万ドル。次男のシェイク・ハムダンがシャドウェル・エステイトの名で購買した総額が1035万ドル。合計で4030万ドル、日本円にして44億円以上の資金が、たった2人の兄弟によって市場に投下されたのである。前年のセプテンバー・セレクトセッションにおける購買が、2人合わせて1986万5千ドル(モハメド殿下1562万5千ドル、ハムダン殿下424万ドル)だったから、前年比で見ても2倍以上の「買いあさり」状態であった。
だがそんな中、市場最高価格馬を落札したのは日本人バイヤーであった。2日目に登場した上場番号426番を、クールモアとの壮絶な一騎討ちの末に取得してチケットにサインしたのは、栗東に厩舎を構える森秀行調教師。落札価格の800万ドルは、セプテンバーセールの歴代最高価格。キーンランド社が主催する全てのセールを通じて、歴代4番目という超ビッグプライスであった。
現場がちょっとした騒ぎになったのは、落札が決まった後だった。森師が馬主の名を明かさなかったため、この大きな買い物をしたのはいったい誰なのか、関係者・マスコミが渾然一体となった捜索が始まったのだ。
森師にクライアント名を明かさなければならない義務はなく、セールで代理購買が行われた際に代理人が馬主名を公表しないのはよくあることなのだが、金額が金額だっただけに、捜索の手も執拗だった。だが、Sさん、Yさん、別のSさんなど様々な名が噂に上った挙げ句、落札から1週間以上経過した現在も、購買者の名は特定をされていない。
森師がチケットにサインをしたのにも関わらず、最高価格馬はアメリカでデビューするという噂もある。父はストームキャット、母は米G3ドッグウッドS勝ち馬ウェルカムサプライズで、母の兄弟に全米年度代表馬エーピーインディや、プリークネスS勝ち馬サマースコールがいるという血統的背景は、間違いなくアメリカ向きと言えるだろう。こと賞金のことだけを考えると日本で走った方が有利で、日本のファンとしては走る姿を見てみたいところだが、種牡馬としてビッグビジネスを成立させるには、アメリカで使う方がベターなことは確か。
いったい誰の所有馬で、どこで走るのか。いずれにしても来年春までには答えが出るはずである。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。