草競馬の季節

2004年09月28日(火) 20:01

 8月最終週の中標津(北海道根室管内)を皮切りに、秋は道内各地で草競馬が開催される。今年も、9月18日と19日に別海町(中標津と同じ根室管内)、26日に新冠町、そして10月3日に浦河町と、毎週のように草競馬が続く。

 草競馬とは、「愛好家による趣味の競馬」というほどの意味である。愛好家だから、当然、他に仕事を持っており、完全に競馬は趣味の世界のはず・・・なのだが、中には本業も趣味も「競馬」という人もいる。

 今回は、その草競馬のうち、別海町で毎年開催されるわが国最大規模?の草競馬を紹介しよう。

 今年第35回目を迎える別海町産業祭。これはもともと地元の特産品を格安で販売するイベントとして発足したものらしいが、回を重ねる毎に地元のみならず北海道の代表的な産業祭として年々規模が大きくなってきたのだそうである。草競馬は今年で31回目を数える。ここまでくるともう立派な歴史を持つ草競馬と言って差し支えあるまい。

 別海町といえば、酪農と漁業の盛んな町として知られる。何せ、人口よりも飼育されている牛の数の方が何倍も多いのだ(人口1万7千人に対し、乳牛と肉牛が合わせて10万頭以上いる)。一方の漁業は、鮭、ホタテ、牡蠣など。それらの山海の幸を直販するテントがズラリと並び、多くの人出で賑わう。草競馬は、18日と19日の二日間にわたり、産業祭会場の一角に設けられた「専用コース」で開催される。

 18日の初日はいわゆる平地競馬で、19日の二日目にはばんえい競馬となる。例年二日間の開催で平地とばんえいとに日程が分れているらしい。今年、私が見学したのは初日の平地競馬の方だ。

 別海の草競馬は正式名称が「馬事競技大会」という。平地競馬のコースは1周約800m程度のダートコースを使用する。その内側に二つの山を持つばんえいコースが設置されているので、かつての岩見沢や帯広を小型にしたようなロケーションである。競技開始は午前10時。驚くことに一日で20レースをこなす。

 ここで圧倒的に多いのが、ドサンコやポニー、またはそれらの雑種などの乗用馬たち。当然スピードはサラブレッドには及ばないものの、比較的初心者でも参加できる(と考えられている)らしく、騎手は、本州方面からの乗馬マニアのような人々もたくさん混じっていた。以前はムツゴロウ王国からのエントリーも多かったという。

 馬場はダートだが、日本の競馬場のイメージとはかなり異なり、砂というより土と言った方が近い。のみならず、ゴルフボール大の石もごろごろしており、かなりラフなコースである。しかも、第4コーナー付近は、コースの内側より外側の方が低く、「危ないコースだ」と指摘する騎手が少なくない。現にこの日も、逸走したり、落馬したりするのはこの「魔の第4コーナー」付近に限られていた。

 馬産地日高の草競馬は軽種馬が多く出場するが、ここではほんのわずかだ。繋駕速歩レースも4〜5レース組まれており、昭和40年代まで各地の地方競馬で盛んに行われていた懐かしい風景を楽しむことができる。トロッター種による速歩レースや、雑多な乗馬による200mの「スプリンターステークス」(直線だけの一発勝負)などなど、次々に繰り広げられる個性的なレースの連続である。

 中には、特定の乗馬クラブがスポンサーになって、そのクラブの所属馬だけが出走するレースもあり、騎手は乗馬好きの本州からの観光客が務めるのである。技術も馬の能力もまちまちだが、草競馬に騎乗する機会など滅多にないことだから、実にみんな楽しそうに乗っている。草競馬というのはこういう楽しみが原点なのかも知れない。

 今年は参加しなかったらしいのだが、昨年の別海で、とあるJRAの厩舎関係者がレースに騎乗しているのを見た。しかも親子で。なぜそれが分ったかというと、出場メンバーがアナウンスされていたからである。もちろん本来ならば競馬開催日。こんなところで草競馬に出ていて良いものか?と多少心配にもなったのだが、この人はとにかく「毎年参加したいくらいだ」と興奮しながら語っていたのを思い出す。

 私はまだ二日目のばんえいを見たことがないのだが、こちらは、初日以上の盛り上がりだそうである。出走馬も二日目の方が多いという。

 9月中旬といえば、北海道はまさに暑くも寒くもない絶好の観光シーズン。一度、この草競馬を見学してみてはいかが?

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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