2016年07月29日(金) 18:00
もちろんこれは、ジャスタウェイや、今春の天皇賞で2着、3着したカレンミロティック、シュヴァルグランが象徴する種牡馬ハーツクライの真価だが、ナスノセイカンが春の新潟で上がり32秒6を記録し、格上がりの1000万特別を圧勝したのを契機に本格化しかかっているあたり、無類の平坦適性がモノをいっている可能性も大きい。
父ハーツクライは、その母アイリッシュダンス(父トニービン)が新潟記念、新潟大賞典の勝ち馬なので、高い平坦適性(とくに新潟)を秘めていたことは納得だが、母方も伝統の名門牧場が誇るもともとは平坦一族でもある。
ナスノセイカンは近年では珍しい栃木那須野牧場の生産馬であり、母ナスノフィオナの全4勝は、新潟、福島2、函館だった。さかのぼるファミリーは、ナスノセイカンから数えて4代母がナスノカオリ(父パーソロン)である。この1971年の桜花賞馬は、福島大賞典、関屋記念でも好走している。その全妹ナスノチグサは、オークス馬であると同時に新潟記念の勝ち馬でもある。
桜花賞馬ナスノカオリにラディガ(父グロウスターク)を配して誕生した牝馬ナスノアロマに、つぎはタイトスポット(父ヒズマジェスティ)を配して生まれたのが祖母ナスノフローラ。よって牝馬ナスノフローラは、伝説の名馬リボーの「3×4」というよりも、リボー直仔のヒズマジェスティ(1968)=グロウスターク(1963)全兄弟クロス「2×3」である。
いまはもうアメリカに残るくらいのリボー系はマイナー種牡馬系に近いが、リボー伝説が残っていた当時、大物誕生を願う生産者は難しい側面を持つことは承知のうえでリボー系種牡馬の登用が珍しくなかった。現在、凱旋門賞に世界中で1番傾斜しているのが日本だとされるが、凱旋門賞を2連勝したリボー、同じく2連勝した直系のアレッジドに対する傾倒が、日本の生産界の凱旋門賞制覇に対する出発点である。たとえば吉田善哉さんの愛したフイニイの母は、リボーのコピーのような配合だった。
ナスノセイカンの祖母になるナスノフローラは、リボーの血を強烈にクロスさせたのだから、当時としても特殊な配合だった。現代の活躍種牡馬では、タニノギムレットにグロウスターク(父リボー)のクロス「3×4」がみられる程度である。
イタリア育ちのリボーは、欧州のローカルの平坦巧者でもあった。その血を引く日本の馬がローカルの平坦巧者であって少しも不思議はない。ナスノセイカンには、リボー伝説がよみがえるくらいの活躍を示す大物に育って欲しいものである。平坦の新潟で本格化したい。2-3歳馬や、トップのオープン馬以外の4連勝はめったにないが、4歳ナスノセイカンは条件再編成の時期に重なったから、3連勝でもまだ1600万の条件馬である。4連勝は至難ではない。
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柏木集保
1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。
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