2016年09月14日(水) 18:00
第1回目は去る7月27日(水)11名参加、第2回は8月18日(木)20名参加、そして第3回目は9月9日(金)に12名が参加し、朝8時半から夕刻までスケジュールに則り、この研修がどのように行なわれているのかを体験した。
基本的に3回とも内容はほとんど変わらない。前日入りした体験入学者たちは、寮に宿泊し、翌日朝から参加することになる。午前8時半より、まずこの研修の概要を説明され、質疑応答などの時間も設けられる。多くは北海道以外からの参加者で、この秋にここを受験する予定の若者たちだが、中には、まだ高校2年生だったり、中学生だったりという人もいる。将来的に馬の仕事を目指す上で、ここを受験すべきかどうか自分の目で判断するためにはるばる遠くからやってきているのだ。
それぞれ、馬に対する強い関心はあっても、動機はさまざまだ。牧場で働きたい若者のみならず、夢は大きく将来は中央競馬の調教師になって自分の管理馬で凱旋門賞を獲りたい、と語る若者もいる。また育成現場で騎乗するよりも、生産牧場で当歳や1歳を手掛けてみたいという若者、とにかく競馬が好きで、競馬に関わる仕事をするためにさしあたり騎乗できるようになりたいという若者もいれば、海外に行って馬の仕事をしたい子や自分の牧場を持ちたい子など、同じ競馬を介していながらも微妙に将来像は異なる。
研修概要の説明を受けた後は、訓練馬が繋養されている厩舎に移動し、そこでまず現役34期生たちの騎乗訓練を見学する。この春、入講した21名の34期生は、すでに1周800mダートコースにて駈歩の訓練まで進んでおり、前後の間隔を一定に開いて、教官の指示した速度で縦列や2頭併せで自在に馬を操縦できるようになるための訓練が行われているところだ。
まだキャリアがやっと5ヶ月経った程度ながら、曲がりなりにも駈歩ができるようになっており、意のままにならない訓練馬と格闘しながらも、必死に手綱を握る。その姿を見て、ある種の憧れを抱く若者も少なくない。「わずか5ヶ月(7月、8月の体験入学会の時にはそこまで経っていなかったのだが)でこんなに上手に乗れるようになるのか」と驚きを隠せないでいる若者がずいぶんいた。
実際の騎乗訓練を見学した後は、BTCの広い敷地内をバスに乗って移動しながら、各施設を見学する。面積が1500haあるこの調教場には、屋内施設だけでも600mダート、1000m直線ウッド、1000m坂路の3か所あり、その他、外のコースとしてはダート1600m直線と1200m直線、800mトラック、1600mトラック、2000mある芝馬場など、非常にバラエティに富んだ調教の可能な施設である。
中でも体験入学会の参加者が驚きの声を上げるのが、坂を上って、総延長2400mに及ぶなだらかな傾斜のある山の上のグラス馬場を見た時だ。見渡す限り青々とした草原が広がり、圧巻の風景が出現する。本来は育成馬の調教のために設置されたコースだが、実はそれほど利用者が多くないようで、芝生もまったく痛んでいない。そこに足を踏み入れると、とても日本とは思えないようなロケーションであり、誰しも感動を覚えるくらいの景色である。
施設を一巡したところで、昼食タイム。午後は、まず研修生も日々使用する乗馬シミュレーター体験から始まる。午前中は説明や見学のみのメニューだったが、午後はいよいよ体を動かして体験するメニューが盛り込まれている。
乗馬シミュレーターは、実際の競走馬と同じような動きをする実物大(ただし脚部はない)の模型で、3台用意されている。まずこのシミュレーターに乗り、感触を確かめた後は厩舎に移動してボロ拾いなどの経験を経て、いよいよ乗馬体験となる。教官が調馬索を持ち、訓練馬に体験入学者たちを騎乗させて動かすのである。
多くは乗馬未経験者だが、中には、高校馬術部で乗ってきた子や乗馬クラブに通っている子、変わり種では各地の草競馬に出場していた子などもいてさまざまである。
しかし、現時点での乗馬経験の有無は、必ずしも受験者の合否判断の際の材料にはならないという。この研修で求められているのは、末永く牧場の現場で働いてくれる若者であり、意欲があり、コミュニケーション能力のある素直な人柄の若者だという。
午前中はどこか緊張した硬い表情の若者が多かったが、午後になり、実際に体を動かすようになってくると少しずつ表情が柔らかくなってくる。体験入学会の締めは、夕刻からのバーベキューだ。現役の34期生や教官などと一緒に炭火を囲んで北海道名物のジンギスカンを中心にトウモロコシやカボチャなどの野菜も一緒に網の上に並ぶ。ここで体験入学者たちは現役の研修生から生の声を聞き、実際にこの秋にここを受験するかどうかを判断することになる。
バーベキューの中ほどで、1人ずつ台上に立ち、今回の体験入学を通して感じたことなどをみんなの前で披露する場も設けられている。実はこういう場面ではきはきと挨拶ができるか、自分の気持ちを素直に言葉で表現できるかどうかを「試されて」いるのかも知れない。「この研修から牧場スタッフとして送り出す以上、現場で可愛がられなければいけないのです」とはある教官の弁だ。
ともあれ、この体験入学会に参加する若者たちはいわば「馬業界を目指す」貴重な人材であり、競馬の発展のためにも、できることなら選考試験など課すことなく全員を業界全体で受け入れられるのが望ましい。未経験者がいきなり牧場の現場に就職するにはややハードルが高く、こうした研修制度はちょうど恰好の「職業訓練の場」として存在しているわけだが、有為な人材を確保するためにも、こういう研修制度、勉強の場がもっとあっても良いような気がする。
なお来春入講となるBTCの育成調教技術者養成研修第35期生の出願受け付け締め切りは10月14日必着となっている。資料請求、問い合わせは0146-28-1001 BTC教育課、教育係まで。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。
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