2016年10月05日(水) 12:00
全く予想していなかった結果に、半ば呆然である。言うまでもなく、凱旋門賞におけるマカヒキ(牡3、父ディープインパクト)のパフォーマンスについてだ。
先週のこのコラムで記したように、芝中距離路線における日本馬の水準は世界でも有数で、中でもヴィンテージクロップと言われる今年の3歳世代にあって、ダービーを制した世代最強馬がマカヒキである。前哨戦のG2ニエル賞(芝2400m)の内容は完璧で、その後の調整も順調と伝えられていた。当日の馬場発表は「Bon(=良)」で、ペネトロメーター(馬場硬度)の値「3.0」まで前哨戦と同じで、つまりは時計の出やすい馬場となった。唯一ツキがなかったのが16頭立ての14番となった枠順だったが、そこはシャンティーをよく知る鞍上のクリストフ・ルメールが、その手腕と経験でなんとかカバーしてくれるはず。もちろん相手は強いが、凱旋門賞馬となる資格はおおいにあり。気性的にも安定しているから、仮に勝てなかったとしても、必ず好勝負はしてくれるはず、と見込んでいたのだが……。
グリーンチャンネルの生中継で武豊騎手が解説されていたように、11番枠から絶好のスタートを切ったハイランドリール(牡4、父ガリレオ)が外に張り気味に進路をとったため、これに押されてマカヒキの進路も外目となり、潜り込みたかった内に入れなかったという誤算はあった。だが、4コーナーで一杯になってしまった理由を、そこだけに求めるのは、納得の行きかねるところである。
一番懸念されたのは故障だが、幸いにして、レース後のマカヒキに異常は見られなかった。
競馬は難しい。そのひと言で片づけてしまうのは、解説者として失格であろうが、それ以外に言葉が見つからないのが実情だ。まずは無事に帰国し、身心ともに纏わりついているであろう疲労を回復した後、捲土重来を期すことを願うばかりである。
勝ったのは、先週のこのコラムで「勝つ可能性のある3頭」のうちの1頭に挙げたファウンド(牝4、父ガリレオ)だった。
ファウンドが引いた12番というのも、決して恵まれた枠ではなかったが、そこからスムーズに中団内埒沿いというポジションを確保したライアン・ムーアの手腕は、やはり絶妙であった。そして、16頭立ての16番枠からスタートし、たすきコースの前半は1頭だけ大外を進むという大胆な策に出て、結局は2番手の内埒沿いというポジションに持ってきたオーダーオブセントジョージ(牡4、父ガリレオ)のフランキー・デットーリの騎乗にも、目を見張らされた。ここぞという大一番で彼らが見せる手綱さばきには、大向こうを唸らせるだけの卓抜たる業がある。
これも先週のこのコラムで記したことだが、管理するエイダン・オブライエン調教師が「今年はこの馬で凱旋門賞を獲る」と、思い定めていた節があったのがファウンドだ。狙いすました標的を目論見通りに打ち抜いただけでなく、1-3着を独占してしまったのだから、この男もやはり只者ではない。
ファウンドと同じく、比較的早い段階からオブライエン師が「凱旋門賞を視野に入れている」と語っていたオーダーオブセントジョージを、ノーマークにしてしまったのはともかくとして、ハイランドリール(牡4、父ガリレオ)に印を回しきれなかったのは、痛恨の極みである。今年のG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝12F)を含めてG1・3勝の実績を誇る馬が、現地のオッズで25倍の9番人気というのは、食指を動かされる馬が他に複数いたにしても、摩訶不思議な不人気ぶりで、つまりはそういうキャラクターの馬なのであろう。
3.0倍の1番人気を裏切り5着に敗れたポストポンド(牡5、父ドゥバウィ)については、これも先週のこのコラムで、エプソムのG1コロネーションC(芝12F)がこれまでのベストパフォーマンスと記した。そうであるならば、右廻りでのパフォーマンスは左廻りでのパフォーマンスに比べると、いくらか落ちるというのが、敗因の1つとなろうか。
7.5倍の3番人気で9着に敗れたハーザンドは、前走後の調整過程が順調さを欠いたこともさることながら、2分23秒台での決着となるような馬場では、もとよりこの程度のパフォーマンスしか出来ない馬と見るべきだろう。
そして、今年の凱旋門賞を巡る大きなトピックの1つが、日本国内における馬券発売だった。発走が日本時間だと23時5分という深夜だったこと、PATのみの発売だったことを考えると、42億円弱というのは驚きの売り上げと言えよう。日本の競馬ファンが、どれだけこの時を待っていたのか、この数字が如実に物語っていると言えそうだ。
なお、来年の凱旋門賞について、「来年もロンシャン以外で」と公表していた主催者のフランスギャロは、このほど、「来年もシャンティー開催」であることを確認している。
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合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。
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