2016年10月18日(火) 18:00
騎手の脚を守る長靴を専門に作っている荒川靴店
秋競馬真っ盛り。爽やかで天高く馬肥ゆる秋…まさにそんな秋華賞でしたね。牝馬3冠の最終戦。ユーイチ(福永騎手)の左ステッキに応え、抜群のタイミングで追い出されたヴィブロスが瞬発力を生かした差し切り勝ち。
ユーイチのコメントに「一番欲しいポジションが取れた。向こう正面からじわっと動いていき4角で前を射程圏内に入れた。これで負けるようだったら運がなかったと思えた」とありました。ヴィルシーナとはタイプが違う魅力があり頼もしいヴィブロスの活躍が楽しみです。
秋華賞初勝利でGI20勝目の区切りおめでとうございます。同期の活躍は、めちゃ嬉しいです!「おめでとう!」と必死で声援を送ったけど俺の声届いたかな?ファンからの声援はドドドーって、すごかったですよ!
秋は、話題満載!!菊花賞・天皇賞と続きますね。天皇賞の日は、ストレイトガールの引退式もあります。皆さんライブ観戦楽しみましょう。
***
今週は、騎乗する騎手の脚を守る長靴を専門に作っている荒川靴店にお邪魔しました。荒川さんとは、赤い糸でつながってるんです(えっとそんな関係…ではありませんよ!)。ジックリコラムを読んでくださいね。よろしくお願いします。
常石 今日は、よろしくお願いします。荒川さんとは、古いお付き合いですよね。と言ってもつい最近頻繁にお会いするようになりましたが。いつ頃からトレセンに来ていますか?
荒川 ずっと親父が来てたんですが、ここしばらく体調を崩してるので僕がきています。
常石 そうでしたね。荒川さんと言えばまずお父さんの顔が浮かんできます。いつもどっしりしていて頼りになる方でした。僕が現役の時もずっとお世話になりました。コラムを書くようになってからは、トレセンスタンドでは豊さんのそばでずっと見守ってるって感じで話したり靴の感じを見たりしていたように思います。そういえば、最近見かけないなーと思っていたんですよ。荒川さんは、長靴を専門に作っているんですか?
荒川 はじめは、一般の靴も扱っていました。岸和田に店と工場があり春木競馬も近かったので長靴を依頼されることが多くなり専門になりました。一般の靴とは違って、個々ぴったり合う靴を作るので中々手がかかり難しいですよ。
常石 苦労してるんですね。
荒川 ぴったり過ぎてもいけないし、歩くのではなく靴を履いて馬の感触を感じられるようにしないといけないので難しいですよ。靴の底から感じとってもらうには、どうすればいいか?騎手の方に話を聞いて、個々に合わせた靴を作れるように努力しています。
「靴を履いて馬の感触を感じられるようにしないといけないので難しいですよ」
常石 そうかー、履きやすいとか歩きやすいだけではないんですね。底から感触を感じ取ることが大事ってよくわかります。馬に跨ってると、動きが伝わってきますからね。僕は脚に麻痺があるので靴選びには気を使っていますが、靴ってとっても大事ですよね。Tシャツだったら少し大きくても着たりできますが、靴はそんなわけにはいかないですよね。
荒川 一人ひとり癖もありますからね。最近はおしゃれ感も取り入れ個々に要望もあります。
常石 豊さんの靴は、豊カラーがついてましたね。赤とか白いのもあるんですね。
荒川 調教用とレース用を区別していたり、助手さんが厩舎カラーの靴を履いたりしていますね。
常石 内田助手(元騎手)が赤い靴を履いてるのを見てかっこいいなーって思いますよ。靴だけではなく馬乗るのも上手いしな…だから余計に格好よく見えるんですね。
荒川 皆さんおしゃれしていますよね。仕事(馬乗り)をしているときが一番おしゃれかな?
常石 豊さんは、いつも靴がピッカピカなんですよ。雨で泥んこになってもすぐに磨いています。とっても大事に扱ってるのでびっくりします。「馬に乗るには一番大事だからね。たしなみですよ」ってさらりと言う。4000勝をされたときにコメントをお聞きしたんですよ。
武豊 荒川さんの靴は、履きやすいしずっと愛用しています。僕のイメージどおりに作ってくれるので助かります。4000勝もできたのはもちろん靴の役割も大きかったと思います。作るだけではなくその後のケアもきちんとしてくれるし、ずっと見ていてくれるので安心して使えますね。
武豊騎手「4000勝もできたのはもちろん靴の役割も大きかったと思います」
常石 お父さんの代から息子さんに変わられたようですが、変わりはないですか?
武豊 全く同じです。履き心地いいよ!
常石 豊さんは、いつもきれいに磨いてますよね。
武豊 エチケットでしょう。大事にしないとね。
常石 僕は中々手入れがきちんとできないのですが、大会に出るとき馬に跨ってから、コーチが長靴を拭いてくれます。こんな時、「よっしゃー頑張るぞ!」と思いますね。勝負靴なんですね。
武豊 そうだよ。ヘルメットから靴の先まで勝負服なんだよ。大事にしないとね。
常石 はい、僕もしっかり乗れるように靴を磨きます。
荒川 いいですね。そんなに言っていただくと靴の作りがいがあります。僕たちも喜んでもらえるように履き心地のいい靴を作ります。
常石 靴の種類もいろいろあるんですか?
荒川 地方競馬・ばんえい競馬とかによっては、材料も違いますね。地方競馬だと騎乗回数も多いので強さとかが大事なんですよ。平均して1年で1足ぐらいかな?
常石 皮の材質も違うんですか?
荒川 最近では、軽くて丈夫なクラリーノを使っています。ぴったり過ぎても柔らかすぎても…と微妙に違うので毎週トレセンに出張しコミュニケーションをとっています。修理もしています。
常石 形も違ってきましたよね。
荒川 そうそう、ファスナー付きやずぼっと履けるものなど。長靴の長さも違うんですよ。
「人によって長靴の長さも違うんですよ」
常石 そうか、身長も違うから長さも違うのか?足の大きさだけかと思ってたわ(爆笑)。聞けば聞くほど難しいですね。お父さんは、跡を継いでもらえて、喜んでおられるでしょう。
荒川 大したことはしてないですけどね。父は毎日競馬を見て楽しんでいます。豊さんの4000勝は、飛び上がって喜んでいましたね。見ることができて幸せな人生だったと思います。つい最近弱ってきてるからなー…歳には勝てんと愚痴をこぼしてますね。
常石 靴一筋だったんですね。
荒川 そうですね。普通の靴屋から長靴の修理を頼まれることが多くなり、それを本職にしていったのは立派だと思います。
常石 きっちり後を継がれお父さんも安心されているでしょうね。僕がデビューしたときに島津先生(中学の恩師)から「荒川靴店知ってるか?」と聞かれたんですよ。僕たちの靴はほとんど荒川さんで作ってもらってます。島津先生の旦那さんが、荒川さんの高校の教師だったんですよね。
荒川 そうそう、僕の担任でしごかれたわ。それがご縁で仲人もしていただきました。つねちゃんとは恩師つながりやな。これもすごいよね(笑)
常石 僕も聞いてびっくりしました。お世話になってます(爆笑)
荒川 不思議な縁でつながってると思うと面白いです。これからもよろしくお願いします。
常石 こちらこそ。つい先日も岡田騎手の取材ではお世話になりました。すれ違ってなかなかお会いできなかったので、岡田騎手に連絡していただき助かりました。
荒川 地方競馬出身で靴がよく痛むので御贔屓にしていただいてます。
常石 僕たちの知らない一面に遭遇することが多いんですね。
荒川 だからこの仕事が面白いしやりがいがあるのかもしれませんね。
常石 やりがい…いいですね。僕もやりがいを感じてコラムを書きます。
荒川 楽しみにしてますよ。
常石 公私混同しながらの取材に応じていただきありがとうございました。
この取材の後 荒川靴店のお父様が84歳でお亡くなりになられたそうです。「違う面で競馬一筋だったので、豊騎手の4000勝を見ることができて最高の人生だったと思う」と息子さんが言っておられました。告別式の祭壇には豊騎手から送られた花が父をねぎらってくれたと感謝しておられました。
競馬の職人がまた一人亡くなられ残念な思いとさみしさを感じます。ご冥福をお祈りします。
競馬を支えているのは一人ひとりの力だと痛感しました。
つねかつこと常石勝義でした。
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常石勝義
常石勝義 1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っているほか、えふえむ草津(785MHz)の『常石勝義のお馬塾』(毎週金曜日17:30〜)に出演中。
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