週刊サラブレッド・レーシング・ポスト

2004年12月07日(火) 14:02

 シャティン競馬場を舞台とした香港国際競走の開催が、今週日曜日に迫った。

 昨年まではスプリントが幕開けだったが、今年口火を切るのは2400mのヴァーズだ。英国のブックメーカー「コーラル」の前売りでは、昨年のこのレースの勝ち馬ヴァリーアンシャンテが1番人気(11対4)だが、当初参戦を予定していたジャパンCを「コンディションが整わず」との理由で回避した経緯があるだけに、素直には飛びつきにくい人気馬である。2番人気に推されているウォーサンともども、現地入り後の気配をじっくりと観察する必要がありそうだ。

 臨戦態勢からは、4ヶ月ぶりのジャパンCで6着とまずまずの競馬をし、一叩きした上積みが見込まれるフェニックスリーチに食指が動く。地元勢では昨シーズンの香港G1チャンピオンズ&チェイターC勝ち馬スーパーキッドの評判が高いようだが、穴を狙うならルーズヴェルトではないかと見ている。移籍2シーズン目を迎えて香港競馬にも馴れてきたはずで、昨年の愛ダービー3着という実力をもってすれば大勢逆転もあると思う。

 サイレントウィットネスという絶対的存在がいるわりには、興味深い顔ぶれが揃ったのがスプリントだ。ヨーロッパからフランスのG1アベイユ賞の1〜4着馬が雁首を揃えて遠征。豪州からトップスプリンターのエールが、日本からもこの路線の2トップ、カルストンライトオとサニングデールが参戦と、単勝オッズが2倍を切ろうかという大本命がいるレースとは思えぬ豪華メンバーとなった。

 スプリントに限って言えば過去惨敗続きの日本馬だが、直線1000mのG3アイビスサマーダッシュの勝ち馬カルストンライトオには、過去の日本馬にはない新鮮な魅力を感じる。シャティンの芝はこの馬に向くはずで、右にもたれるクセさえ出さなければ、あわよくば大本命馬の寝首を掻くことまで期待したいと思う。

 コーラルのオッズでは、日本馬デュランダルが1番人気(5対2)に推されているマイル。デュランダルは人気に相応しい実力馬だと思うが、前走BCマイル2着のアントニウスピウスや、昨年のこのレースの5着馬で、前走ニューマーケットのG2チャレンジSを制して昇り調子でここへ向かうファイアブレイクなど、相手も一筋縄ではいかないメンバーが揃っている。

 最大の惑星は、地元香港のオリエンタルマジックだ。最初にその名を耳にした時には「誰やそれ」と思ったものだが、よくよく戦績を見てみたら、今年の夏までマイケル・スタウト厩舎にいたカラマンがその正体だった。カラマンと言えば、3歳時ロイヤルアスコットのG1セントジェームスパレスSが2着。今季も10FのG1エクリプスSでリフューズトゥベンドの3着になっている実力馬だ。オーナーシップが変わってデイヴィッド・ヘイズ厩舎に移籍し、ここが香港における緒戦となるのだが、これだけ実績のある馬の馬名変更を、いとも簡単に認めてしまう香港ジョッキークラブにも困ったものだと思う。いずれにせよ、来季は世界制覇という高い目標を持つデュランダルにとって、試金石となる一戦である。

 メインの香港Cは混戦模様だ。レイティング最上位で、コーラルも1番人気(7対2)に推しているのが、昨年のこのレース2着馬ラクティだが、大凡走を目の当たりにした直後だけに、全幅の信頼は置きづらい。同じく日本から「ハシゴ」のパワーズコートも、そろそろお釣りの無い頃だ。

 今季好調のエイントヒア、実力馬エレガントファッションといった地元勢もそれぞれ魅力があるが、勝ち切るまでの力があるかというと疑問。

 ではどこから入るのかと問われれば、狙いが立つのは3歳牝馬3頭だ。フランスのオークス馬ラティスは、今季の欧州3歳牝馬路線ではウイジャボードに次ぐ存在である。フランスオークスではラティスの後塵を拝したものの、前走休み明けのG1オペラ賞を快勝したアレクサンダーゴールドランも侮りがたい。そしてわれらがダンスインザムード。ここ2戦で古馬の男馬を相手に示した力は相当なもので、このメンバーに入っても決して引けはとらないはずである。

【先週の訂正】
 前回のこのコラムで、8代目桂文楽師匠が1971年に国立小劇場で「大仏餅」を演じている途中、噺に詰まって絶句。「もう一度勉強し直して参ります」と言って高座を降りた逸話を引用させていただきましたところ、あろうことか、これを林家彦六師匠の発言と誤って記述するという、誠に恥ずかしい間違いをしでかしてしましました。まさに顔から火が出る大失態です。ここに謹んでお詫びし、訂正させていただきます。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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