伝統行事に黄色信号?

2004年12月07日(火) 20:08

 毎年1月2日に行われる恒例の「浦河神社騎馬参拝」は、この欄でも以前取り上げさせてもらったが、来る平成17年元旦に実施予定のこの行事に少々問題が生じてきている。

 明治以来の伝統行事であるこの「騎馬参拝」は、毎年この1月2日に実施され、それほど数は多くないとはいえ熱心な見学者(初詣を兼ねてのことではあるのだが)に見守られて総勢20〜30騎もの人馬が101段ある浦河神社の石段を駆け上がることで知られる。その伝統行事に「待った」がかかっているのである。

 先月下旬に行われた「騎馬参拝実行委員会」と地元の浦河警察署による話し合いの席上、警察側が従来のコースをすべて騎馬で神社までやってくることに難色を示したことがことの始まりだという。

 従来、騎馬は二手に分かれ、大型馬ははるばる10キロ以上も道路上を進んで会場へと向かってきていた。もう一方の小型馬(ドサンコやポニーなど)は神社から約100メートルほど離れた場所まで馬運車で輸送し、そこで下ろして馬装を済ませて会場へと向かう方法が取られてきた。言うまでもなく、体力の劣る小型馬を10キロも延々と歩かせることは無理な相談であり、やむなくこうした別ルートからの集合を採用してきたのである。

 浦河警察署の提案は、大型馬も小型馬と同様に、会場近くまで馬運車で運び、そこで降ろして準備を整えた後、騎馬参拝を実施してはどうか、というもの。その理由として「危険防止のため」と大晦日から元旦未明にかけての、「えりも岬警備に配置した人員の休息のため」を挙げたという。

 危険防止とは、あくまでも人馬についてのことである。真冬のこの時期、騎馬軍団が出発するJRA日高育成牧場から浦河神社までの道のりは、途中に山越えをしなければならないため、積雪のある年などは蹄鉄がアスファルトの路面で滑らぬようにと塩化カルシウムや砂を散布し、極力事故(人馬転)の防止に努めてきた。騎馬の先導をしながら、路面の状況を見極めて作業する人員も従来は騎馬参拝実行委員会ですべて賄ってきた。それが今回、「この山越えの道路部分だけは馬運車で運んではいかが?」と警察側が提案してきたわけである。

 もちろん、この提案もあながち無理難題とは言い切れない。なるほど危険といえば確かに危険個所ではある。だが、もっとも危険なのは101段の石段を馬に騎乗したまま上がったり降りたりすること。そのクライマックスの部分が最も危ない場面なのだ。(だからこそ、初詣客は熱心にそれを見学しようとするのだが)

 また、馬運車で輸送するとなると、まず車の手配をしなければならない。しかも、地面から乗り降りできるような馬運車は「業務用」の大型馬運車である。元旦の休日に車を出してくれる会社があるかどうか。何より輸送料金も馬鹿にはならないはず…。そして、神社の石段は駆け上がれなくとも、途中の騎馬行進だけでも参加したいという騎乗希望者がたくさんいて(私事だが我が娘もその一人だ)実行委員会としては警察とのたった1回の会合の席では即答できずに持ち帰ってきたと聞く。

 「危険を未然に防止するため」とは言うが、実行委員会サイドにしてみれば、昨年(厳密に言えば今年の元旦)まで何の問題もなく続けてきた伝統行事であり、地元警察にはできることなら従来通りの協力を仰ぎたいとの意向でいるらしい。今週中にもまた両者の話し合いが持たれる予定で、大綱はそこで決定することになるだろうが、果たしてどのような「妥協点」が見出されるか、注目したいと思う。

 余談ながら、馬を使った伝統行事には、ほぼ例外なく「危険」がつきまとうものだとは思う。凍結路面で人馬転などしようものなら、それこそ骨折、重傷も覚悟しなければならないところだが、各自あらかじめそのための保険にも加入しており、もちろんヘルメットとプロテクターは標準装備しているのだ。誰一人として警察に「責任取れ」などと言う騎乗者はいないはずなのだが…。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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