50億円の融資問題

2004年12月14日(火) 20:08

 しばらく笠松と北関東に目を奪われていたところ、ここへきて岩手競馬の危機的状況が俄かにクローズアップされるようになった。あまり適当な喩えではないが、タカサキとウツノミヤの二頭が馬群から抜け出しその後をカサマツが追っているレース展開だとばかり思っていたら、いつの間にやら大外から一気にモリオカとミズサワがごぼう抜きしそうな勢いで追い込んできている、という印象だ。

 全国紙の岩手版や地元紙などの報道を見る限り、岩手県競馬組合は現在かなり厳しい状況に陥っていると言わざるを得ない。今回の12月定例県議会小委員会(9日決算特別委員会、13日と14日に総務、農林水産委員会)にて、県から岩手県競馬組合へ50億円を融資するための補正予算案が、会派を超えた各議員から集中攻撃され暗礁に乗り上げた形となっているのだ。そもそもこの50億円は、今年度末までにどうしても必要なつなぎの資金で、まずこの年末に24億円、そして年が明けてからも3月の年度末までに27億円が支払いに充てられるため、競馬続行のためには欠かすことのできない性格のものだという。

 ところが県議会では、50億円という巨額の融資のあり方を巡り、地方財政の厳しい折に、あまりにも金額が大きすぎることや、競馬組合側の策定した経営改善計画の内容が杜撰で実現不可能という他ない内容であること、去る7月にも競馬組合が資金ショートを起こしかけ市中銀行から短期融資を受けていたことなどの理由から、議員が一斉に反発したものだとか。競馬続行に熱心な増田知事も、かなり答弁に苦慮し、9日の決算特別委員会は異例の12時間に及ぶマラソン審議となったが、そのうち10時間あまりがこの競馬問題に集中。質問に立った議員から競馬組合側に資料の提出が要求され、しばしば審議が中断される事態となったらしい。そんなやりとりから前述の7月における資金ショート問題なども、今回初めて組合側から明らかにされたとのことで、議員の間にはかなり競馬組合に対する不信感が広がっているとも聞いた。

 岩手県議会での審議の行方についてはいずれまた報道されるだろうが、少なくともこの原稿を書いている14日の時点では、県より組合への50億円もの融資に関してどの小委員会でも否定的な結論を出しており、15日から始まる本会議に結論が持ち越されることになるのだろう。

 一口で50億円というが、これは途方もない金額だ。先ごろ廃止を正式に表明した高崎競馬の一年分の馬券売上げよりも多いのだ。岩手県の場合、昨年度の馬券売上げは確か367億円。しかし、今年度はそれより約50億円程度も減少する見通しらしく、競馬組合では11月にまとめた「改革実行計画」を発表し、大幅な経費節減と、馬券発売へライブドアなどの民間参入を図るとともに3連複・3連単の導入などで2007年度には黒字化を目指すとしている。

 だが、累積赤字104億円に加え、おそらく今年度もこのままでは来年3月末までにかなり巨額の赤字を計上することになるだろうと予測されており、加えて、盛岡市内に所有していた「競馬会館」(市内神明町、地下1階地上9階のビル)と旧・盛岡競馬場跡地(市内高松、約7000坪程度)の売却も進んでおらず、まさしく瀬戸際まで追い込まれている印象が強い。9月以降、存廃問題に関しては、高崎と宇都宮、笠松の三競馬場だけが注目されてきたのだが、少なくとも財務状況から言えば、岩手の方が遥かに深刻な状態に陥っているのである。

 もし50億円の緊急融資が受けられないとしたら、どんな結末が待っているのだろうか?もし万が一、資金ショートにより岩手競馬が今年度限りで廃止せざるを得ないような事態にでもなれば、もう生産地は壊滅状態になること必至である。笠松の動向も依然として予断を許さないが、岩手の方がより症状が重いようだ。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

新着コラム

コラムを探す