岩手競馬の今後は…?

2004年12月21日(火) 20:23

 前回に引き続き、岩手競馬のことを書く。12月15日の県議会本会議において、前回触れた「50億円融資案」は賛成7人、反対41人という圧倒的な大差で否決され、岩手県競馬組合は、再度対策を立て直さなければならなくなった。この年末までに市中銀行へ23億円余の返済を迫られており、客観的な情勢としては、まさに「瀬戸際」に立たされているといっても決して過言ではない。

 ただ、その後の地元紙などの報道を見ていると、増田知事や柴田副管理者(岩手県競馬組合)は、あくまで競馬存続の基本姿勢であり、「金融機関への債務返済を延期してもらうべく交渉する」(増田知事)と、今後の方針を語ったという。同時に、組合が策定した「改革実行計画」の見直しも迫られており、今後事態がどのように展開して行くのか、しばらく目を離せないところだ。

 12月18日、競馬組合の柴田副管理者は水沢競馬場に赴き、県議会で50億円の融資が否決されたことに触れ、厩舎関係者約70人を前に現状と今後の対策について語ったという。「廃止するとの噂もあるがどうか」との調教師らの質問に柴田副管理者は「安心して仕事に励んで欲しい」と答えたと聞く。

 柴田副管理者は、15日の県議会にて50億円の融資問題が否決された直後、朝日新聞社のインタビューに「改革実行計画は必ず実現できる。競馬場(盛岡・水沢)と9ヵ所ある場外施設をまとめて売却する計画も進行中だ」と答えている。「現在4つの企業と話をしていて、条件の交渉に入っている。何をいくらで売却できるかは分からないが、年明けの早い段階では大筋で合意できるのではないか」とのこと。

 もしこれが実現するのであれば、「ウルトラC」的改革作戦と言う他ないが、柴田副管理者はさらに「施設を買ってもらった企業にそのまま馬券販売も委託するつもり。それは来年1月の改正競馬法で可能になります。企業は馬券販売と販売所の運営を担当し、馬券販売額に応じて委託料を受け取ることになる」と説明する。「現在は赤字だが、この民間参入とコスト削減の効果で、早期に企業と利益を分け合えることになる」とあくまで強気である。

 この通りに事が運ぶのを祈るしかないが、一方の県議会議員たちも、競馬廃止に関しては慎重な意見が多い。その理由として、実際に廃止となればあまりにも損失額が大きく、県内経済に深刻な影響を及ぼす懸念があるからである。福田知事と柴田副管理者の競馬廃止にともなう損失額の試算には約40億円もの開きがある(知事362億円、柴田副管理者400億円)が、いずれにせよ、緊縮財政下の今の時点で、この巨額負担は関係自治体にとってあまりにも重いと言わざるを得ない。

 ちなみに、この損失額の中には、1996年にオープンした新盛岡競馬場の施設撤去費用も含まれているらしいので、何ともやり切れない思いだが、かといって県議会としては、このまま不十分な改善計画を容認し安直に50億円もの融資を議決してしまっては県民の理解を得られない、との厳しい選択を迫られた形である。ここで何度か取り上げた岐阜県笠松競馬場は、「借金(累積赤字)も、存続への意欲もない主催者」だったが、まったく相反するように岩手は「借金も、意欲も人一倍ある主催者」と言って差し支えない。そして両者とも、生産地にとっては、かなり重要な位置を占める「地方競馬の雄」である。

 やや古い数字だが、2歳馬の登録頭数では、岩手が301頭、笠松234頭とある(平成13年12月時点)。合わせて535頭。参考までに、廃止が濃厚な北関東の2場(高崎・宇都宮)で253頭。実に800頭にも及ぶ数字だ。とりわけ、地方競馬への入厩馬が主流の小規模生産者にとっては、地方各地での存廃問題が文字通り死活問題となって経営を直撃することになるのである。

 これが回りまわって、道営ホッカイドウ競馬へも波及する。なぜならば、道営競馬は、2歳馬の圧倒的な「輸出大国」だからである。今、各地の「貿易相手国」が減少の一途をたどっていることで、2歳馬を転売する際に以前ほど高い価格で売却できなくなっているのは事実のようだ。深刻で切実な問題である。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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