一年を振り返って

2004年12月28日(火) 20:04

 今年を象徴する漢字が「災」に決定したニュースを先日テレビで見て、本当にいろいろと災害に見舞われた一年だったことを改めて思い出した。競馬の世界でも、まさしく「災」の字がぴったりするほど、さまざまな逆風の吹き荒れた一年になったと思う。その最も大きなものは、このところ何度もここで書いているように各地の地方競馬に巻き起こっている「存廃問題」である。

 一説には、日高だけで1000頭を下らない1歳馬の売れ残りがいると言われる。これらの中には、存廃問題の浮上している競馬場へ入る予定だった馬も多数いるわけで、「存続が最終的に決定するまでは新しい馬は買えない」と考える馬主や調教師の買い控えムードが大きく影響していると思われる。

 とはいっても、いつまでも生産牧場に置いたままでは何の付加価値も生み出せないし、とりわけ牡馬などは秋以降急速に大人びてくるので、自らの手で調教のできない生産者はさしあたり、どこかの育成牧場に生産馬を移動し、まずは来年5月の2歳トレーニングセールでも目指すより方法がないわけである。

 さて、私事ながら、1ヶ月ほど前にさる東北在住の馬主から「1歳馬を1頭探してもらえないか?」と依頼を受けたが、その後数日して例の岩手競馬における「50億融資問題」(県議会にて否決)が暗礁に乗り上げてしまい、その馬主からも「岩手競馬の存続に目処がつくまで購入を見合わせたい」という連絡が寄せられた。おそらく、こんな話は枚挙にいとまのないくらいあるはずだ。

 思うように売却できないことと、先行き不透明な地方競馬に見切りをつけ、中央競馬の生産者が自らの生産馬を提供するタイプのクラブ馬主で会員を募集し、一発勝負に出る例も多い。その中の一つ「ターファイトクラブ」では、12月16日現在で2歳馬54頭中、16頭がデビューしている。この世代ではまだ勝ち上がった馬がいないようだが、一つ上の3歳馬で1勝以上の馬は17頭。募集馬の三分の一程度が勝ち上がる計算になるだろうか。(いずれも「TURF」2005年1月号別冊による)

 こうした、ハイリスク・ハイリターンへの傾向が、今後はますます進行するような気がする。ここ数年間で賞金と出走手当の大幅減額に踏み切った主催者が多い地方競馬では、仮に競馬場が存続していても、馬主にとって十分な収益を上げられる状況になっていないため、「クラブに提供して中央に入厩させる」生産馬は減ることがないだろう。また、厩舎事情も、ひと頃よりはかなり入厩させやすくなっているのも間違いなく、一部の人気厩舎以外ならばたいてい登録頭数に余裕があるとも言われている。今年の流行語にもなった「自己責任」で、生産から競走までを一貫させられる資本力が求められる時代なのかも知れない。

 来年は、たぶん日高も大きく様変わりする年になるだろう。どう考えても現在の生産頭数規模を維持するのは無理で、体力(経営力)の弱い生産者から順に、淘汰されて行くサバイバル時代に突入するであろうことだけは間違いない。

 競馬法改正により、地方競馬が復活できるかどうかも大きな関心事になる。現状維持だけではなく、以前のような「活気のある地方競馬」へと立ち戻れるかどうか、今後の展開に注目して行きたい。

 年明けの1月から3月までの間にたぶん笠松と岩手の今後が決定されるはず。何とか存続を願うばかりである。

 今年は最初から最後まで、三石町の2頭の生産馬ハルウララとコスモバルクに明け暮れた年だったと思う。社台グループとサンデーサイレンスに代表されるようなエリート軍団の対極に位置する存在として、この2頭がずっと注目され続けたことはある意味で私たち零細生産者にとっても大きな励みになったことを記して今年最後のコラムを締めくくりたい。皆様良いお年をお迎え下さい。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

新着コラム

コラムを探す