2つの講習会

2005年02月01日(火) 19:16

 1月下旬、日高で軽種馬生産関連の2つの講習会が行われた。まず26日、静内町公民館では「生き残るための経営体のあり方と地域の取り組み」と題するシンポジウムが北海道日高支庁の主催で、また29日には三石町農協にて「日本における軽種馬文化とこれからの販売戦略について」というタイトルで民俗学者の大月隆寛氏を講師にそれぞれ開催された。

 まず、26日のシンポジウムから簡単に紹介しよう。こちらはパネルディスカッション形式で、コーディネーターは古林英一氏(北海学園大学教授)。パネリストに、岡田繁幸氏(ビッグレッドファーム代表)、小山良太氏(北海道大学大学院農学研究科研究員)、高岸順一氏(日高軽種馬生産振興会青年部連合会会長)、松浦快之氏(同会副会長)の4氏。

 あらかじめ「主な論点」として、以下の項目が設定されていた。

1.軽種馬経営の現状をどのように考えているか。軽種馬生産や地域は、どのように変化して行くと考えるか。

2.強い馬づくり、売れる馬づくりに欠かせないものは何か。実現するための具体の方策、手順は。

3.経営改善のため、生産者自ら行わなくてはならない改革とはどのようなものか。

4.家族経営であっても、最大限にその能力を発揮できる仕組み・環境とはどのようなものか。

5.分業化・グループ化などの組織化は、どのような形態であれば取り組めるか。メリットやデメリット、組織化の障壁とその解決策法は。

6.競争力のある経営体の育成には、生産者をはじめ、地域としてどのようなことに取り組んでいくべきか。

 議論が横道に逸れぬように、との配慮?なのか、おおむねこの線にのっとって話して欲しいという主催者側の強い“希望”がここに表れていた。その裏には、日高支庁(というより、道もしくは国)が進めようとしている生産振興事業(中央競馬会の特別振興資金等を財源とする)の実施が今年度より始まるという事情がある。約170億円の予算を投じ、「若くて意欲のある経営体には施設や繁殖牝馬購入のための助成を行い、他の農業部門との複合化もしくは軽種馬からの転換を考えている経営体にも手助けをする」という内容である。さらには、軽種馬生産を廃業する者に対する「繁殖牝馬の廃用への助成」も盛り込まれている。

 これらを背景に、日高支庁では、今後の日高の生産者が取り組むべき課題として「協業化、分業化」を中心に議論を進める予定だったわけだが、予想通り?最初にマイクを向けられた岡田繁幸氏の話の内容が濃すぎて、ほとんど他のパネリストの発言は霞んでしまった感がある。

 岡田氏は、昨秋浦河で開催されたシンポジウム(2004年11月17日掲載分の拙稿を参照)でも、しきりにコスモバルクを実例に、「地方競馬から中央へある程度自由に出走できる制度になれば、既存の閉鎖的な中央の内厩制度を打破できる。毎月70万円もの金額に及ぶ厩舎の預託料が、いかに個人馬主の馬の購買意欲を損なっているか。ありとあらゆる矛盾や問題がこの内厩制度に集約されている」と断じていた。

 その主張は不変で、今回のシンポジウムでも盛んにそれを強調した。そして「地方競馬から中央競馬へある程度自由に出走できるようになれば、馬主は地方競馬に所有馬を預け経費の節減が可能になる。そうなれば中央の厩舎も、預託料を地方競馬の水準に近いところまで値下げしなければ馬が入らなくなる。競争原理が働いて、非常に理想的な環境が現出する」と述べた。

 岡田節は、止まるところを知らず、この後も続くのだが、「同じ事を繰り返し主張して行かなければ、何も変わらない」との強い信念に裏打ちされた姿勢が窺え、ある種の感動を聞き手に与えたと思う。

 日高の生産者にとって、閉鎖的な厩舎制度に真っ向から異を唱える岡田氏の発言は、驚嘆すべき姿勢に映る。やがて、中央競馬会も、おそらくはこの矛盾に満ちた制度に本格的な「手術」を施さざるを得ない時代がやってくるだろう。岡田氏の発言が無駄に終わらぬようにしたいと思う。

 さて、次に、大月隆寛氏を講師に招いての講演会について。折からの雨(北海道だというのに!)に祟られたこの日、会場に集まったのは25人ほど。大月氏は、約1時間程度各地の地方競馬の現状について語り、また改正された競馬法にも触れた。

 高崎、岩手、笠松、福山、高知、等々、大月氏の巡歴した地方競馬場はかなりの数に上るが、中でも「高知は、確かに待ったなしの状況に置かれてはいるものの、競馬組合の管理者がとても前向きで、ある意味開き直っている。できることは何でもやる、という貪欲さがある。それがひょっとしたら、従来考えられなかったような新たな発想を呼び起こすことになるのではないか。その意味では注目したい競馬場だ」と発言していたのが印象に残っている。

 生産地としては、この先、いったいどの程度の生産頭数があれば需要を満たすのか、まだ事態は流動的であり、誰も確かなことは分からない。とりわけ、地方競馬に依存度の高い日高の小規模牧場の多くにとって、今後の各地方競馬場の行方が何を措いても気になるところである。

 最後になるが、先週取り上げた笠松の「その後」について。今日(2月1日)現在、まだ最終的な結論は出ていないようだ。梶原知事は「新知事には(結論を)繰り越さないようにしたい」と語ったことが地元紙に報じられている。任期は先週も触れた通り2月5日で終わるのだが、その2日前の2月3日に笠松・岐南両町長と梶原知事との「三者会談」が予定されており、そこでいよいよ最終決定されることになりそうだ。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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