2005年02月22日(火) 20:42
昨年12月に県議会で50億円の融資が否決され、一気に危機的状況を迎えた岩手競馬。どうにか地元金融機関に返済を猶予してもらい、とりあえずの年内資金ショートだけは免れた。しかし、年が明け、いよいよ年度末(3月)を控えて、地元では再び競馬問題が新たな局面を迎えている。
50億円の資金不足のうち、13億円は新たな地方債に借り替えることで2005年以降の返済に繰り延べできることから、最終的な不足額は37億円。その負担割合を、県27億円、盛岡市5億円、水沢市5億円とすることで、それぞれ県議会と市議会に諮られることになった。
また地元紙によれば、昨年12月に見直しを要求されていた競馬組合実行計画案を修正し、組合が所有する5ヶ所の場外施設のうち2ヶ所を売却(計15億円)、3ヶ所を賃貸する目処の立ったことが報じられている。
2005年より2016年までの12年間における馬券売り上げ計画は、5548億円から5135億円に下方修正し、コスト削減計画も当初の年間24億円から30億円に増額。2005年度より単年度黒字を計上し、2016年度には現在約140億円に上る累積赤字を解消できる、としている。
この計画通り、競馬運営が改善して行くことを祈るほかないが、この期に及んでも、組合の発表した「2ヶ所の場外施設売却」の交渉先が明らかにならないのはどういうわけだろう?
そして、そもそもが、競馬組合の柴田副管理者は、昨年12月に「2つの競馬場(盛岡、水沢)と9つある場外をまとめて売却する計画も進行中だ。現在4つの企業と交渉をしており、年明け早々には明らかにできる」と語っていたのである。
全部まとめて、という計画からはかなりのスケールダウンと言わざるを得ず、仮にこの「2つ売却、3つ賃貸」計画が本物だとしたら、以前柴田氏が自信満々で語っていた当初計画(全部まとめて、という)は、いったいどうなったのか、とも思う。しかも、「現在4つの企業と交渉中」だと明言していたのである。
してみると、この「2つ売却、3つ賃貸」計画も、果たしてどこまで信頼できる確かな話なのか、私にはどうにも疑わしく思えてならない。
とはいえ、何が何でも、ここに至っては県と盛岡、水沢両市からの融資を実現させなければ、新年度以降の競馬開催が難しくなる。それこそ、誰も「廃止すべし」などとは声高に主張していない岩手競馬が、資金調達のできないことからやむなく廃止せざるを得ない事態もあり得るということだ。
折から、2月18日より、岩手県2月定例議会が始まった。日程は3月24日までの35日間。ここで、岩手県競馬組合に対する27億円の融資問題が再び審議されることになる。
岩手競馬の厩舎関係者の間でも、さすがに「競馬が続けられるのかどうか?」というもっとも根本的な部分が依然として不透明なのが相当に響いているという。例年でもこの時期、岩手競馬はシーズンオフに入り、ただでさえ厩舎では入厩馬が減少する傾向があるのだが、それが今年はさらに加速しているそうである。
実際に馬を所有する馬主としても、「果たして岩手は間違いなく存続できるのか確信が持てない」との心理から、新たな2歳馬の入厩はもちろんのこと、昨年末に廃止された高崎あたりからの現役馬トレードなどにも概して慎重だという。「30万や50万で結構使えそうな馬を買わないか?と言って来るが、今の状態ではまだ即答はできない」と概して消極的だそうである。
笠松競馬場に存廃問題の浮上した昨年9月以降、地元では“風評被害”としか言いようのないほど在厩馬の退出が進行した。それと同様に、「確実に新年度も競馬が続行できる」との保証がない現状では、岩手の馬主もまた、すべては融資問題の行方を見極めからのこと、という姿勢を堅持しているのだ。岩手のとある厩舎関係者がこんな話を聞かせてくれた。
「だいたい年間300億以上も馬券を売っていて、運営できないというのだから、いかにコストのかかる体質のままやってきたのか、ということ。反省すべき点はとても多い。好景気の時代にみんな競馬を食い物にしてきたということです。それが今でもあまり変わっていない。例えば、厩舎のアルミサッシが壊れた時、競馬組合の指定業者に修理を依頼したら5万円かかると見積もりされた。ところが、個人的に知り合いの業者に同じ修理の見積もりを出させたら1万円以下でした。どういうことか分かりますか?指定業者はそれほど儲けを上乗せしているということです。すべてがこんな感じだったのじゃないですかね。そうそう、盛岡の厩舎1つにしたって、1棟1億円の建設費用だったそうです。他の民間の仕事なら半額以下でできますよ。おまけに使いもしない2階建てでね。他にもたくさんあるんじゃないですか、こんなことは」
400億円以上を投じて作った新盛岡競馬場も、その一つ一つをつぶさに検証してみると、かなりいろいろな問題点が出てくるようである。生産者の立場から、毎回こうしたネガティブな話題ばかりを提供するのは正直なところ、かなり気の引ける部分がある。だが、追い詰められた今こそ旧弊を廃し、改革すべき点は改革して行かねば、地方競馬の未来はないものと信じるからである。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。