2005年03月01日(火) 20:48
先月28日をもって北海道のばんえい競馬の全日程が終了し、1989年に現在の北海道市営競馬組合(旭川、岩見沢、北見、帯広の4市で構成)によって運営されるようになってからの馬券売り上げと入場人員最低記録を塗り替える厳しい結果となった。
世界で唯一の、大型農用馬による馬橇を曳く「ばんえい競馬」は、ピーク時の1991年には年間約320億円を売り上げたが、このところのファンの“地方競馬離れ”傾向から脱却できないまま、近年は右肩下がりに売り上げを減少させてきており、平成16年度はついに152日開催で総額144億4738万円まで下落した。当初の目標額(161億4700万円)と比較すると89.5%、対前年度比でも85.4%と大きな落ち込みとなってしまった。
同時に入場人員も、対前年度比で10%減少し51万7236人に終わった(1日平均3402人)。ともに相当厳しい状況に追い込まれており、主催者は、2005年度より始まる「経営再建5ヵ年計画案」をまとめ、赤字体質からの脱却を目指すことにしているが、その道のりは他の地方競馬主催者同様、かなり険しいものになることは間違いなさそうだ。
ばんえい競馬は、これまで4市に総額27億2000万円の益金配当を行ってきたが、一方の累積赤字も平成16年度末の時点で24億5000万円。北海道新聞の報道によれば、「累積赤字が4市への配当金額を上回れば、北海道市営競馬組合の解散を決断する公算が大きい」とのこと。「組合規約では、累積赤字など組合でまかなえない経費は、4市が均等に負担するとしている」ものの、「旭川市の幹部は『税金を投入する以上、いつまでも赤字を容認できないというのが4市の共通認識。累積赤字が配当金を超えれば、現在の形での競馬存続は議会や市民の理解を得られない』と話す」そうである。
主語と数字を変えただけで、どこの地方競馬のことについて説明しているのかまったく判別できなくなるほどに、ばんえい競馬も地方競馬各主催者にほぼ共通した問題点を抱えているということである。
なお、他の主催者が一様に経費節減と開催日数の減少を経営改善の大きな柱として考えているのと異なり、ばんえい競馬は平成17年度、4月16日から翌18年3月27日までの通年開催に踏み切るという。開催日数は本年より10日増え、162日。売り上げ目標は164億円。単年度赤字は4000万に圧縮し、構成団体4市から各々1000万円ずつの支援を受けて収支均衡を図るとしている。
ただ、1999年より毎年2億円以上の赤字を計上し続けている市営競馬にとって、この新年度の収支目標は非常に厳しい数字だ、との見解もあり、「新年度は赤字を2億7000万円未満に抑えられるかどうかの勝負になるだろう」と分析する関係者もいるらしい。(つまり2億7000万円で累積赤字が配当金と並ぶわけである)
北海道遺産にも選定された他に例のない個性的なばんえい競馬も、結局は他の地方競馬同様に財政論の呪縛から脱却できないまま、その存在意義を問われようとしている。4市は「競馬自体をなくすことはできない」との認識では一致しているものの、前述のように、もし市営競馬組合を解散する事態に追い込まれたら、北海道新聞によれば、累積赤字の処理や、競馬場所有者、馬主、厩舎関係者などへの補償金として約80億円が必要とさせており、これもまた4市の負担となって地方都市財政を直撃する。何とも厳しい局面に至ってしまったと言わざるを得ない。
ところでこのばんえい競馬に出走する大型の農用馬も、やはり北海道の地元で生産されている。食肉としての需要もあるため、競馬に供される農用馬はあくまで全生産馬の(たぶん)一部分だが、ばんえい競馬の衰退は、こうした農用馬生産事情にも一定の影響をもたらすことだろう。毎年夏から秋には道東各地で草競馬が行われており、平地競馬よりむしろばんえい競馬の方がずっと出走馬も多く賑やかだそうである。「競馬自体をなくすことはできない」との共通認識はあっても、今後は、興行として自立できなくなった場合にばんえい競馬の伝統をいかに守って行くかも、大きな課題になることだろう。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。