新年度開催に向けて

2005年03月08日(火) 20:27

 昨秋あたりから何度もこの欄で各地の地方競馬場における存廃問題について取り上げてきた。本来の意味における「生産地だより」にふさわしい話題とは言い難いことは重々承知していたが、この国の競馬が現実に「中央」と「地方」とによる二重構造になっており、それぞれが異なる馬と人とによって開催されていながら、生産地段階の馬資源の部分では共通している(ほとんどが北海道の生産地で生産されてどこかの時点で「中央」と「地方」とに峻別されて行く)という現実がある。そのために、生産地から見ると、中央競馬と同程度に、地方競馬の動向はかなり我々の牧場経営に大きく影響を及ぼすのは自明の理であり、決してないがしろに出来ない重要な問題だと認識していたからに他ならない。とりわけ、日高の多くの中小牧場にとって、地方競馬の存在はほとんど牧場自体の生殺与奪の権を握っているに等しく、今後も事ある毎に我々の生活を直撃しかねない大きな存在である。一つの地方競馬場の廃止が、確実にその分の生産馬需要をなくしてしまうことを意味するとともに、回り回って、中央競馬の登録抹消馬の転出先がなくなることにも繋がる。影響はその地方競馬場の関係者だけにとどまらないのである。

 さて、年度末の3月を迎え、昨年来存廃問題に揺れていた笠松とともに、もう一方の地方競馬の雄である岩手競馬が、このほど県議会における総務・農林水産の二つの常任委員会にて、県より競馬組合に対する27億円の融資問題を可決させたと報じられ、ようやくこちらも、どうにか“首の皮一枚”で存続に向けて踏み止まった形となりそうだ。

 岩手は、以前ここでも書いたように、昨年12月の県議会にて県より競馬組合に対する50億円の融資提案が否決され、一気に危機説が浮上していた。その後、融資額を27億円まで圧縮し、再度、年度末定例議会に上程されていたことは先週触れた通りである。とりあえず新年度開催の目処が立ったことで、今後は文字通り、関係者一丸となった“岩手競馬再生”に邁進しなければならない。今年度末で144億円に達する累積赤字を抱えながらも、岩手県議会は、「今、競馬を廃止するのは、構成団体(県、盛岡市、水沢市)の負担があまりにも大き過ぎる」と判断したからに他ならない。債務の合計が一説には400億円とも言われる岩手競馬は、さしあたり、2005年と6年の二ヶ年で生き残りを賭けることになる。この二年間でアクションプランに示した数字が達成されることを祈るのみである。

 さてもう一つの笠松競馬場。前岐阜県知事・梶原拓氏が「条件付き一年間存続」を表明したのが2月3日のことである。その後、2月12日に再び、笠松・岐南両町長や岐阜県競馬組合の関係者など計8人が北海道を訪れ、日高の生産者や自治体関係者などと会談した。

 その結果、笠松の再生に向けて北海道側からも可能な部分から協力して行くことを約し、今年一年間をかけて取り組むことで合意に達した。

 詳細についてはまだ未知数だが、「基金を取り崩したとはいえ、累積赤字を生んでいない競馬場として、笠松再生は十分可能だ」とこの問題に取り組んでいる藤沢澄雄・北海道議会議員は語る。

 一つの「地方競馬防衛圏」として、笠松と岩手が位置付けられていたのは事実で、このあたりで踏み止まれなければドミノ倒しのように他場の廃止への流れが加速するとの見方が一般的だっただけに、“笠松再生”にも引き続き注視して行きたいと思う。

 ただ最後に一言付け加えるが、生産者とは言っても、その経営のありようや考え方はまさしく千差万別で、地方競馬の行く末を真摯に憂慮する人から、まったく地方競馬の動向など眼中にない人まで実に様々である。中には、ほとんど地方競馬と聞いただけでアレルギー反応を起こしかねないような生産者もいて(その理由はいろいろあるのだが)、この種の問題を考える際の、大きな障害にもなっている。「俺は中央だけに馬を売ってきたので地方競馬など関係ない。だめなところはさっさと潰れてしまえばいい」と、さすがに公式の場では発言しないものの、本音ではそう考えている人も決して少なくないことを付け加えておく。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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