JRAブリーズアップセール

2005年03月29日(火) 17:51

 昨年までは東西に分かれて、毎年4月にドラフト制度によって指名され、馬主に配布されていたJRA育成馬。今年からは、いよいよ「調教セール」に上場され、市場で販売されることになった。

 セールが行われるのは4月25日(月)。場所は中山競馬場。昨年のサラブレッド1歳市場にて購買された80頭が上場予定である。これらの馬たちは、日高と宮崎に分けられてそれぞれ育成・調教を積んできた。日高育成牧場56頭、宮崎には24頭という内訳だ。

 去る3月23日と24日の2日間にわたり、私事ながら日高育成牧場にてこの56頭を間近で見る機会に恵まれた。来るセールに合わせ、上場馬の名簿(すでに完成している)に添付される個別の写真を撮影するためである。私に依頼があったのは正月明けの1月中旬のこと。期限は「遅くとも3月一杯まで」とのことだったので、日高育成牧場側と連絡を取り合い、この両日の撮影となった。

 撮影開始は午後1時。終了は午後3時。56頭のサラブレッドを1頭ずつ所定の位置まで引いてきて立たせる。それを真横からポジフィルムで撮るのである。理想的には種牡馬パンフレットのような立ち姿がベストだが、なかなかそうは行かず、出来栄えは、まあ、現物(カタログ)をご覧いただくしかない。

 頭数が多いので、1頭に費する所用時間は、だいたい3分から5分程度になる。馬を前後させて、いいポジションに立たせるのも、実はちょっとした技術とコツが必要で、慣れた人でなければ仕事が円滑に進まない。手順としては、まず所定の位置まで引いてきた馬を落ち着かせて、脚の位置を決めるところから始まる。歩幅を見て、「一歩前へ」「一歩後退」といった指示を送るのは、真横で立ち姿を見ている私の仕事である。脚の位置が決まったら、そのまま動かずに、馬の注意を引きながら両耳を前方に向ける。思わず「ハッ」として前方を凝視する瞬間を捉えてシャッターを押す。言葉で説明すると概ねこんな具合だが、言うのと、行うのとではかなりの違いがある。

 まず、神経過敏な馬は、大体がじっとしていられない。脚の位置が決まっても、耳を頻繁に動かし、目つきも何かにおびえたような表情になってしまいがちだ。かといって、反対に鈍感なタイプもまた難物で、著しく緊張感を欠く馬や、ボーッとして半分眠ったような表情をする馬、耳を寝かせたままでまったく動かさない馬などこれまた撮影には不向きと言える。人間とは違い、口で言い聞かせてもまるで効果のない場合が多いので、馬の撮影はまさしくストレスとの闘いだ。

 話がやや逸れてしまった。このJRA育成馬は、初めてセリにかけられ売却されることになる。従来のドラフト制度とはかなり内容が変わってしまうので以下の点を事前に知っておく必要があるだろう。まず、購買者(JRA馬主資格の所有者に限られる)は、今年より一人が何頭でも購入可能になったこと。また、購買者は個人馬主に限定されず、例えばクラブ法人などでもOKなのだそうである。そして、従来は、東西に同数ずつ配布されていたような制約もなくなり、基本的にどこの厩舎であっても預託することが可能と記されている。言うならば、このJRA育成馬も厳しい関門を突破しなければ入厩とデビューが約束されたものではなくなっているわけである。購買者にとって最大の関心事は「価格」だが、果たして本番ではどんな結果が待っているだろうか。少なくとも、名簿に記載されている「1歳市場時の購買価格」は、必ずしも今の時点での成長度やデビュー後の競走能力とは相関関係がないと思われる。立ち姿を見ただけで単純な結論は出せないが、見た目にはまさしく「玉石混交」のように感じた。日高育成牧場の56頭は、来る4月11日、中山競馬場へ移動する前に「展示会」が開催されることになっている。その模様はまた後日紹介したい。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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