2005年04月05日(火) 15:40
日高にもようやく遅い春が訪れ、放牧地の雪もやっと消えた。桜前線の北上はまだ1ヶ月先のことだが、浦河にあるBTC(軽種馬育成調教センター)に通う2歳馬たちは、来月下旬に予定されているトレーニングセールに備え調教が佳境に入っている。
このほど届いた「BTCニュース」第59号(2005.4.1発行)には、昨年(1月〜12月)のBTC利用状況が詳しく紹介されており、1993年の開場以来、確実に利用頭数が右肩上がりで増加してきていることが分かる。
開場した年、わずか108頭でスタートした年間利用実頭数は、その後1998年には1503頭に増え、さらに昨年は2493頭まで伸びた。一日平均で、昨年の場合452頭がこの施設を利用し、年間開場日数(基本的に日曜日は閉場)312日で全体の延べ利用頭数は実に14万1097頭に及ぶ。
年齢構成比で圧倒的に多いのは2歳馬だ。月別に見ると、1月から9月までは、8割程度が2歳馬で占められており、10月から12月までにかけて、1歳馬と2歳馬の比率が逆転する。つまり、競馬場(トレセン)に入厩する2歳馬が移動するのと同時に次の世代の1歳馬が入ってくるサイクルとなっているわけである。一方で、3歳や4歳以上も年間を通じてそれぞれ1割程度ずつはいるが、夏場の休養馬も加わるためか他の季節に比べて6月から10月までの間の利用が多いようだ。
一日当たりの利用頭数がピークとなるのは、例年2月から5月にかけての春のシーズンである。昨年を例に取ると、一日当たりで2月の月間最高頭数535頭。3月が583頭。4月が559頭。5月が575頭となっている。ところが、今年はすでに2月から600頭を超える日が出てきて、目下記録更新中だという。この分で行くと、また今年は更に全体の利用頭数が確実に増加して行くのではないか、という気がする。
利用頭数増加を下支えしているのが、急速に増えてきたBTC近隣に位置する民間育成牧場の存在だ。2004年末の段階で、騎乗したままBTCに乗り込んで行ける周辺の育成牧場には全体で594の馬房があり、こちらもまた確実に数は増えている。馬房数の増加は、それだけ確実に需要が見込まれるということである。「BTCに隣接した立地条件」が預託馬を集める際の“セールスポイント”になるので、今後もこの増加傾向は続いて行くだろう。
一方の馬運車による遠征組にとっても、それなりのメリットはある。往復の所要時間は確かにロスには違いないのだが、何より、馬たちは間違いなく「馬運車慣れ」する。車に揺られて調教に向かうことが当たり前になってしまうことで、おそらくは競馬場入厩後も、ここでの経験が活きるのではないか、と思われる。
若駒たちの一大調教メッカとして確実に日本の競馬の中で一定の地歩を固めつつあるBTC。利用頭数の増加とともに、競馬場入厩後の競走成績も順調に伸びてきている…と書きたいところなのだが、何と昨年は中央競馬におけるBTC利用馬の成績が初めて前年を下回ったという(2003年713勝、2004年641勝)。ただし、地方競馬の勝鞍は順調に伸びている(2003年2054勝、2004年2133勝)ので、この中央での勝鞍の減少はもう少し推移を見守りたいと思う。利用馬の中央・地方別登録頭数割合などのデータが手元にないため、一概に「成績下降」などと簡単には結論付けられない。
また、BTC事務所では、利用馬の定義として「一日でもBTC施設を使用し調教を行った馬」としていることから、個別に利用馬の経歴を精査すると、数日程度の馬から半年以上も通い続けた馬までまさしく千差万別となるはず。これらがすべて「BTC利用馬」としてカウントされてしまうことにやや違和感を覚えないわけではない。BTCで調教され鍛えられた馬、と自他ともに認知されるには果たしてどのくらいの利用度が必要なのか、ということも今後考えて行かねばならないことの一つだろう。
とはいえ、全体として、順調に利用頭数が増えている背景には、この施設の利用価値が多くの関係者に認められてきたことを示している。にもかかわらず、未だに多くの育成牧場が「やや人手不足」と聞く。外国人騎乗者も相変わらず多く、「仕事のできるしっかりした日本人」は、まだまだ需要が多い。いつかまた別の機会にそのあたりのことは改めて書きたいと思う。
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田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。