2005年04月12日(火) 10:23 0
9日に行われた世界で最も過酷な障害戦「グランドナショナル」。今年、戦前から最も大きな話題を集めていたのは、連覇がかかったアンバーレイハウスでもなく、第一人者トニー・マッコイが悲願の初制覇を目指したクランロイヤルでもなかった。
メディアの注目を最も集めていたのは、カーリー・フォードの乗る11歳馬フォレストガナー。1年前のこの開催で、フォックス・ハンターズ・チェイスに勝ち、昨年11月には障害の難易度がより高いグランド・セフトン・ハンディキャップ・チェイスにも優勝。2月にヘイドックで行われたレッド・スクエア・ウォッカGCも制して好調を維持し、ブックメーカーによる前売りでも13倍から15倍の4~5番人気に推されていた馬だった。
管理するのは、リチャード・フォード調教師。そしてフォレストガナーの主戦で、大一番でも手綱を取ることになっていたのが、フォード調教師の妻、カーリー・フォードであった。
すなわち、158年の歴史を誇るグランドナショナルで、初の女性騎手による優勝が見られるかどうかが、大きな話題となっていたのだ。何しろ過酷なことで知られるレースである。距離約7240m、飛越する障害数30、勝ちタイムが10分になろうかというサバイバル戦を女性が戦い抜けるかが、競馬マスコミばかりでなく、広くメディア全般にとっての関心事となっていたのである。
ただでさえ加熱気味だった報道に、まさしく火に油を注いだのが、アンバーレイハウスを管理するジンジャー・マケイン調教師だった。マケイン師といえば前年の勝利に加えて、レッドラムでグランドナショナルを3回制している伝説的調教師である。その師が、レースを目前に控えてこう語ったのだ「女性には無理だよ。女が乗るってだけで、フォレストガナーは割り引いて考えるべきだな」。歯に衣着せぬことで知られるマケイン師らしい発言だった。
するとこれを受けて今度は、女性調教師としてグランドナショナルを2勝しているジェニー・ピットマン元調教師が反論のコメントを出した。「昨年フォレストガナーでフォックス・ハンターズ・チェイスを勝ったとき、彼女(カーリー・フォード)は子供を出産してわずか10週間後だったのよ。今の彼女の方が、絶対に体調も良いはず。女は強しよ」。
これを受けて大手ブックメーカーのヴィクター・チャンドラーは、カーリー・フォードを巡る特別の賭けを売り出した。「彼女が第10障害を終えても落馬していない1対3(1.33倍)」「彼女が第20号障害を終えても落馬していない4対7(1.57倍)」「彼女は30の障害をすべて飛越して完走する8対11(1.72倍)」。
結果はどうだったか。カーリー・フォードの乗るフォレストガナーは見事完走。ただし着順は、女性騎手としての最高着順タイの5着に終わった。
合田直弘
1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。