2018年01月30日(火) 18:00 23
上がり3F33秒3の切れ味を繰り出し、見事な差し切り勝ちをしたハッピーグリン(撮影:下野雄規)
◆コスモバルク以来14年ぶりの牡馬クラシック出走に期待したい
今回いきなり冒頭からの“あっぱれ!”は、28日、東京のセントポーリア賞を勝ったハッピーグリン。
褒めるべきことはたくさんあるが、まずは開催がない冬のこの時期に北海道からの遠征競馬だったこと。以前であれば調教すらできない時期ではあるが、今は門別競馬場に屋根付きの坂路があり、田中淳司調教師は普段より負荷をかけて臨んだという。
勝ったのは3歳500万条件の特別戦だが、この時期になるとクラシックを目指す期待馬が続々と出てくるため、2歳夏のJRA北海道シリーズの2歳戦を勝つよりも相当ハードルが高くなる。ハッピーグリンは2歳時にも中央に挑戦して、札幌・コスモス賞、同・すずらん賞でともに3着。そして3歳になっての中央3度目の挑戦での初勝利ということでは、相当なレベルアップが必要だったはずだ。
ちょっと意外だったのは、田中淳司調教師が中央初勝利だったということ。近年、ホッカイドウ競馬では毎年のように調教師リーディングのトップを争い、昨年も門別で119勝を挙げ、2位の角川秀樹調教師(107勝)に12勝差をつけての1位。夏のJRA北海道シリーズには毎年のように期待の2歳馬で挑戦を続けている。
セントポーリア賞の翌日、あらためて中央初勝利だった感想をうかがうと、「長かったですね。これまでも人気になるような馬もいたんですが、ようやく勝てました」と、うれしいというより、ホッとした様子だった。
2007年に厩舎を開業した田中淳司調教師は、3年目の2009年に早くも中央へ挑戦。プリマビスティーで札幌・すずらん賞に挑戦したが6着。秋、南関東へ移籍後は、東京2歳優駿牝馬を制したほか、重賞でも2着3回と活躍した。それ以降、途切れることなく毎年中央への挑戦を続けている。現在とは出走条件やレース体系が異なっていたとはいえ、2011年には古馬も含めて17頭もが中央に挑戦していた。しかし昨年まで勝利には至らず、2着2回、3着5回。そして今回が、のべ62回目の中央挑戦。初挑戦からちょうど10年目ということでは、「長かった」というのが正直な感想なのだろう。
セントポーリア賞のレースぶりをあらためて振り返ってみる。互角のスタートを切ったものの徐々に位置取りを下げ、500mほど進んだ向正面では、12頭立てで離れた後方を追走していた2頭以外、10頭一団の最後方となった。これには「できれば外に出してレースをしてほしい」という田中淳司調教師の指示を意識してのことだったようだ。そのまま3、4コーナーを10番手で回ると、4コーナーではまだ後方の位置取りのまま大外に持ち出した。直線、前をとらえようかというあたりでも、まだ手ごたえは十分なまま。そして追い出されると、あっという間に突き抜けての上り3F=33秒3は圧巻だった。
そのレースぶりからは、時計の出やすい馬場が合うのかと思ったが、「札幌のコスモス賞は早仕掛けもあって3着でしたが、洋芝もこなしていたので、特に速い馬場でということもないと思います」と田中淳司調教師。
気になる今後については、「弥生賞になるか、スプリングSになるか、弥生賞のほうが強いメンバーが集まりそうということを聞いているので、おそらくスプリングSになると思います」とのことだった。セントポーリア賞ではゲート入りをかなり嫌がっていたのでゲート再検査が心配されたが、注意のみで済んだとのこと。再試験となると、そのためだけに一度輸送しなければならず、それがなくなったことではひと安心。
トライアルで上位に入って権利を獲らなければならないが、地方所属馬が中央のクラシック出走となれば、2007年にアネモネSを勝って桜花賞に出走(15着)したエミーズスマイル以来11年ぶり、牡馬では2004年に皐月賞2着をはじめ三冠すべてに出走したコスモバルク以来14年ぶりのこととなる。
当時のコスモバルクもそうだったのだが、冒頭でも触れたとおり、ホッカイドウ競馬に在籍したままでの中央クラシック挑戦は、常に輸送というリスクがともなう。その勇気ある挑戦にはおおいに期待したい。
斎藤修
1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。