障害シーズンの大一番の行方にぜひご注目いただきたい!

2018年03月14日(水) 12:00


◆1番人気のマイトバイト、鬼門の“最終障害”をしっかり飛んでくれれば

 先週に引き続き、「チェルトナム・フェスティヴァル」の見どころを御紹介したい。

 開催初日と2日目のメイン競走であるG1チャンピオンハードルとG1クイーンマザーチャンピオンチェイスには、それぞれ確固たる軸馬がいたのに対し、オッズが割れているのが、3日目と4日目のメイン競走である。

 15日に組まれている、ハードル3マイル路線の総決算となるG1ステイヤーズハードル(芝23F213y=約4,822m)は、三つ巴の様相を呈している。

 オッズ4.5〜5.0倍で、頭ひとつ抜けた1番人気になっているのが、この路線における新興勢力の代表とも言うべきサムスピナー(セン6、父ブラックサムベラミー)である。

 ナショナルハントフラットを2戦した後、16/17年シーズンからハードルを跳び始めたのがサムスピナーだ。このシーズンを4戦3勝の成績で終えると、2シーズン目となった今季初戦、チェプストウのG3シルヴァートロフィーハードル(芝19F100y)で初めて重賞に挑戦し、1/2馬身差の2着に好走。続いて出走したヘイドックのG3ベットフェアステイヤーズハードル(芝22F177y)を17馬身差で圧勝して、重賞初制覇を果した。

 続いてサムスピナーが駒を進めたのが、12月23日にアスコットで行われたG1ロングウォークハードル(芝24F97y)で、仏国におけるこの路線の最高峰であるG1オートゥイユ大ハードル(芝5100m)の17年の勝ち馬ラミセルジュに2,1/4馬身差をつけて快勝。一気呵成にG1初制覇を果している。

 勢いに乗ってここも制することになれば、この路線は今後しばらく、この馬の時代が来るかもしれない。続いて、ブックメーカー各社が5〜6倍のオッズを提示し、僅差の2番人気に推されているのが、愛国の女性調教師ジェシカ・ハリントンが管理するスーパサンデイ(セン8、父ガリレオ)である。

 デインヒル牝馬にガリレオという当節流行りの配合で、しかも、母の兄弟にG1キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(芝11F211y)など2つのG1を制したナサニエル、G1愛オークス(芝12F)勝ち馬グレートヘヴンズ、G1フィリーズマイル(芝8F)勝ち馬プレイフルアクトなど、実に6頭もの重賞勝ち馬がいるというゴージャスな血統背景を持つ馬だ。

 ところが、3歳の7月には早くも去勢され、平地は未出走に終わっているから、何らかの難点があった馬であることは容易に想像がつく。3歳11月にドンカスターの現役馬セールに上場され、5千ポンド(当時のレートで約80万円)で売却されているから、サラブレッドのカーストとしては底辺に近いところにいた馬であった。同じ馬が今、ステイヤーズハードルの最有力馬となっているのだから、競馬とはわからないものである。

 ナショナルハントフラットを4戦した後、15/16年シーズンにハードルデビューし、このシーズンは4戦して1勝。出世の糸口をつかんだのが16/17年シーズンで、5戦目となったチェルトナムのG3コーラルCハードル(芝21F26y)で重賞初制覇を果すと、次走はエイントリーのG1ステイヤーズリヴァプールハードル(芝24F149y)に駒を進め、実力馬ヤンワースの2着に健闘した。

 こうして迎えた今季、初戦となったフェアリーアウスのG1ハットンズグレイスハードル(芝20F)3着、続くレパーズタウンのG1愛クリスマスハードル(芝24F)2着の後、前走2月3日にレパーズタウンで行われたG1愛チャンピオンハードル(芝16F)で、古豪フォーヒーンを2着に退けて優勝。待望のG1初制覇を果した。

 前走は、G1を勝ちに行ったというよりは、ステイヤーズハードルへのプレップを主眼に出走したレースで、そこで勝ちを手にする辺りに、現在のこの馬が進境著しいことを示している。

 そして、5.0倍から6.5倍のオッズで2番人気を争っているのが、既に7つの重賞を制している実績馬ヤンワース(セン8、父ノースダンサー)である。

 今季ここまでの4戦はいずれもスティープルチェイスを走っていながら、距離適性や相手関係を鑑みて、ここに矛先を向けてきたのがヤンワースだ。

 15/16年シーズンにハードルデビューし、このシーズンは5戦して、チェルトナムのG2クラシックノーヴィスハードル(芝20F56y)など2つの重賞を含む4勝。16/17年シーズンも5戦し、ケンプトンのG1クリスマスハードル(芝16F),エイントリーのG1ステイヤーズリヴァプールハードル(芝24F149y)という、2つのG1を含む4勝。2マイルでも3マイルでも大丈夫という多才さを発揮し、ハードル路線のトップリーグを形成する1頭となった。

 前述したように今季はスティープルチェイスに転身し、4戦目となった前走G2ディッパーノーヴィスチェイス(芝20F166y)で、スティープルチェイスにおける重賞初制覇を果している。

 本来であれば、開催2日目のG1RSAノーヴィスチェイス(芝24F80y)、もしくは、3日目のG1JTLノーヴィスチェイス(芝19F198y)あたりが標的となるところだが、突如としてハードルに戻ってくるのは、ここならビッグタイトルに手が届くという、陣営の目論見があるがゆえであろう。

 そして、チェルトナム・フェスティヴァル最終日のメイン競走として行われるのが、スティープルチェイス3マイル路線の総決算G1ゴールドC(芝26F70y)である。

 ブックメーカー各社が3.75〜4.5倍のオッズを掲げて1番人気に推すのが、ニッキー・ヘンダーソン厩舎のマイトバイト(セン9、父スコーピオン)だ。

 もともと素質を高く評価されていた馬で、16年12月にドンカスターで行われたノーヴィスチェイス(芝19F31y)を14馬身差で制してスティープルチェイスにおける初勝利を挙げると、次走はいきなりケンプトンのG1コートスターノーヴィスチェイス(芝24F)に駒を進めた。陣営の期待に応え、後続に10馬身以上の差をつけて独走態勢を築いたマイトバイトだったが、なんと最終障害で飛越に失敗して鞍上のダリル・ジェイコブ騎手が落馬し、G1制覇を逸している。

 その後、ドンカスターの条件戦(芝23F214y)を30馬身差で圧勝したマイトバイトは、続いて出走したチェルトナムのG1RSAノーヴィスチェイス(芝24F80y)で、またも「やらかす」ことになった。

 ここも後続に10馬身以上の差をつけて迎えた最終障害を、今度は無難に飛越した途端、大きく右に寄れて、半ば走るのをやめてしまったのである。2番手にいたウィスパーがあっと言う間にマイトバイトを捉えたのが残り1Fを切った辺りで、万事休すかと思いきや、ここで再び本気で走り始めたマイトバイトが、ゴール寸前でウィスパーを鼻差捉えるという、大どんでん返しをやってのけたのだ。同馬が、極めて高い能力を持つ馬であることを、誰もが納得した一戦となった。

 その後、エイントリーのG1マイルドメイノーヴィスチェイス(芝24F210y)では、普通に走って勝利し、G1連勝で昨シーズンを締めくくっている。

 今季に入るとレース振りは安定し、初戦となったサンダウンのLRインターメディエイトチェイス(芝24F37y)を8馬身差で快勝。続いて挑んだのが、この路線における前半戦の山場となる、ケンプトンのG1キングジョージ6世チェイス(芝24F)で、ここもきっちりと勝って5連勝を果した。

 管理するヘンダーソン調教師は、「最終障害をしっかり飛んで、その後もまっすぐ走ってくれれば、おおいにチャンスがある」とコメントしている。

 今シーズン前半の段階で、G1ゴールドCの前売りで本命の座にあったのは、昨年に続くこのレース連覇を目指すサイジングジョン(セン8、父ミッドナイトレジェンド)だった。

 今季初戦となったパンチェスタウンのG1ジョンダーカンメモリアル(芝20F40y)を7馬身差で制し、G1・4連勝、通算5連勝を飾った段階では、関係者やファンの間に「今年のゴールドCもサイジングジョンで仕方がない」というムードが広がっていたのだが、12月28日にレパーズタウンで行われたG1愛クリスマスチェイス(芝24F)で、同馬は勝ち馬から32馬身も遅れた7着に敗退。入障以降前走までの17戦全てにおいて3着以内に入っていたことからすると、考えられないパフォーマンスだったのだが、その後、詳しい獣医検査の結果、骨盤に亀裂骨折を発症していることが判明。戦線離脱を余儀なくされることになった。

 現在、ブックメーカー各社が5.0〜5.5倍のオッズで2番人気に推しているのが、2月10日にニューバリーで行われたG2デンマンチェイス(芝23F86y)を12馬身差で制し、6度目の重賞制覇を果したネイティヴリヴァー(セン8、父インディアンリヴァー)だ。更に、2月17日にゴウランパークで行われたG2レッドミルズチェイス(芝20F)を快勝したアワデューク(セン8、父オスカー)が、7.0〜8.0倍のオッズで3番人気となっている。

 障害シーズンのハイライトというべき大一番の行方に、日本の競馬ファンの皆様もぜひご注目いただきたい。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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