週刊サラブレッド・レーシング・ポスト

2005年06月07日(火) 12:19

 日本にディープインパクトという無敗のダービー馬が誕生した今年、競馬発祥の地イギリスにも無敗のダービー馬が誕生した。そして、1週間前に府中でダービー馬の余りの強さにひっくり返りそうになったのと同じくらい、エプソムにおけるダービー馬の強さにも衝撃を受けた。

 第226回英国ダービーの勝ち馬は、単勝4倍ちょうどの1番人気に応えたモティヴェイター。先行馬にはきつい流れになった中、道中2〜3番手から直線弾けるような末脚を発揮し、ディープインパクトがインティライミに着けたのと全く同じ5馬身の差を、2着のウォークインザパークにつけてゴールに飛び込んだ。

 モティヴェイターは、共同馬主組織「ロイヤル・アスコット・レーシングクラブ」の所有馬。シンジケートメンバーは230人余りに上るという。モティヴェイターは、03年のタタソールズ・オクトーバーセールで、75,000ギニー(およそ1575万円)という価格で購買された馬だ。単純計算で、シンジケートメンバー1人の当初の出資額は、日本円で7万円弱(もちろんこれに、シンジケートの運営費その他が乗っかったであろうが)。そんな馬が、競馬界最高の栄誉と言ってもよいダービー制覇を成し遂げたのだから、メンバーにとってはこたえられない喜びであったろう。

 圧巻だったのが、レース後の表彰式だった。ほとんどのメンバーが競馬場に集っていたようだが、そのほぼ全員がウィナーズサークルに集結。あんなにたくさんの笑顔で埋め尽くされたエプソムのウィナーズサークルというのは、これまでに見たことがなかった。そのウィナーズサークルの目の前に設えられたステージで行われたセレモニーがどれだけ盛り上がったかは、皆さんも想像がつくだろう。馬主代表、調教師、騎手、厩務員。それぞれにトロフィーが渡されるたびに、ドッと沸き返るような歓声が起こった表彰式というのも、英国ではこれまで見られたことがなかったものだった。

 さて、主役のモティヴェイター。人でごったがえす直前にウィナーズサークルから退散したのだが、競馬場の出張馬房に戻ると、ちょっとしたアクシデントが待ち構えていた。モティヴェイターの右前脚の蹄鉄が外れ、裸足で歩いてきたことに、厩務員さんが気づいたのである。騎手に確認したら、レース中に落鉄した気配はなかったということで、それならレース後に外れたのだろうと関係者が探してみたら、外れた蹄鉄が見つかったのがウィナーズサークルだった。

 翌日朝の段階で、モティヴェイターはわずかに右前の蹄を気にする素振りを見せており、管理するマイケル・ベル調教師によると、「まず1週間はリラックスさせて様子を見る」とのことだ。

 右前の状態が大したものではなく、なおかつ他に何も問題が見つからなければ、モティヴェイターの次走は6月26日の愛ダービーか、7月2日のエクリプスSになる模様だ。

バックナンバーを見る

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

新着コラム

コラムを探す