生産者意向アンケート

2005年06月07日(火) 16:57 0

 6月6日に一通の封書が届いた。差出人は日本軽種馬協会。中を開くと「転廃業をお考えの方へのアンケート調査のお願い」と題する文書とともに、「事業量調査アンケート」が一枚同封されていた。

 設問は全部で5項目ある。短い内容なので以下に紹介する。
1.平成17年4月から3ヶ年の間に、軽種馬生産からの廃業を考えていますか(はい、いいえ)
そしてこの項目に「はい」と回答した人のみ、以降の設問に進む。
2.いつ頃に廃業したいと考えていますか(平成17年度、18年度、19年度、20年度以降)
3.この事業(後述)を利用して用途変更奨励金を交付されることを希望しますか(希望する、しない)
4.事業対象馬の要件に合う自己繁殖牝馬は何頭ですか
5.支部(日本軽種馬協会の各支部を指す)又は地元農協の担当者と、この事業の詳細について相談しますか(する、しない)

 ここでいう「事業」とは、本年度から実施される「軽種馬生産需給安定緊急対策事業」のことである。日本軽種馬登録協会の繁殖登録を受けたサラ系の繁殖牝馬を用途変更し、軽種馬生産を廃業する日本軽種馬協会会員に対し、奨励金を交付するという内容だ。事業対象となるのは平成17年4月より20年3月までの3ヶ年の間に廃業する生産者。そして対象馬は、平成16年1月1日以前に繁殖登録を受け、その日以前から所有している繁殖牝馬であること、及び、平成15年と16年の2ヶ年または1ヶ年のシーズンに交配した馬であること、が条件である。

 奨励金の額は、1頭当たり、評価額の4分の1か50万円のいずれか低い額(最低一律20万円)。但し別途、例えば地元のJAや町などから奨励金が上乗せされて交付される場合には、その上乗せ分と同額の奨励金も交付する(最高25万円)、とある。説明がややこしいのだが、整理するとこうなる。

 原則として、奨励金は最低20万円から最高50万円まで。さらに、この事業への申し込み頭数によっては、確定していないものの、奨励金の上乗せもあり得る。その際には、上乗せ分と同額の奨励金を追加交付する、ということである。上乗せ分がどの程度のものになるのかは今後の同事業への申し込み頭数にもよるため具体的な金額は予測できないが、上乗せ分の奨励金が上限25万円と設定されていることから考えると、これもせいぜい25万円程度か。したがって最大で総額1頭100万円の奨励金というのが妥当な数字だろう。
 
 JRAからの資金提供により「競走馬生産振興事業」が今後5ヶ年で総額169億円の予算を投入し、実施されることになった。その一環が上記の「軽種馬生産需給安定緊急対策事業」である。減少の一途をたどる国内の競走馬需要に対して、相変わらず生産頭数は横這いかやや減少傾向にとどまっており、このままでは圧倒的な「供給過剰」に陥ることが予想される。そうした現状を打破するために、主として低質の繁殖牝馬を用途変更し、強い馬づくりの生産体制を構築するのが狙いである。

 ただし、この事業による奨励金を交付された生産者は、あくまで廃業(もしくは他作目への転業)が義務づけられる。「交付を受けた本人及びその配偶者等生計を一にする者が、用途変更奨励金の交付を受けた後、軽種馬生産に関する飼養管理等の一切の業を行わないこと」と明記されている。

 奨励金と引き換えに、「二度と競走馬生産をやるな」と言われているわけだ。こうした高飛車な姿勢には、生産者として著しい不快感を覚える。わずか1頭50万円の奨励金でここまで指図されなければならないものなのか、と反発したくなる。

 そもそも軽種馬生産は、中央地方を含めたわが国の競馬が必要とされる頭数を供給することで成り立つ。今後、日本の競馬をどのように発展させるべきか、中央と地方の望ましい関係はどのようなものか、まずはそこからフレームアップすべきではないのか。将来像がまったく見えない状態で、このアンケートはどうも違和感を覚えてしまうのだ。この総額169億円に及ぶ事業に関してはいずれまた触れたいと思う。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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