2005年06月14日(火) 17:58 0
トレーニングセールが終了すると、6月には各クラブ法人がそれぞれ1歳馬の新規募集を始める。そして写真カタログやビデオ、DVDなどが会員の元に届けられると同時に、北海道への「募集馬ツアー」が組まれ多くの人々が愛馬と対面する。
去る6月11日は、そんな中の一つ、ユニオンオーナーズクラブの「セレクトツアー」御一行が大型バス4台に分乗し、はるばる静内へやって来た。今年の同クラブは52頭のラインナップで、生産馬を提供する各牧場は午前中から会場(北海道市場)に集合し、本番前にまずビデオ収録を済ませておく。この時、撮影するのは、前、後ろ、横、などの立ち姿と歩く姿で、写真カタログとともに重要な「選考材料」となるものだ。
52頭を収録するのにカメラ3台が稼動していたものの、これはかなりの時間を要する。会場に集められた馬たちは、ほとんど待ち時間ばかりで、しきりにあちこちの馬房から嘶き声が聞こえていた。
早めに昼食が配られ、いよいよ午後1時からの本番に備える。この日の日高地方は雲が多かったものの雨は降らず、まずまずの天気。北海道の6月は、寒くもなく暑くもない過ごしやすい気候の月である。本州方面からのツアーが6月に組まれる背景にはこうした事情もあるのだろう。なるべく条件の整った時期に気分良く馬を選んで頂きたい、との配慮なのだ。
昨年、1頭だけの「おつきあい」だった同クラブに、私事ながら今年は7頭のカタログ写真撮影を提供することになった。撮影は5月中旬。まだ、その頃の北海道は寒い日が多く、ようやく桜が開花し始めたばかりの気候で、募集馬の中には冬毛の抜け切らない1歳馬もいた。それから約1ヶ月が経過した。この時期の1ヶ月は極めて馬が大きく変わる1ヶ月でもある。豊富に青草を食み、すっかり冬毛の抜けた1歳馬たちが展示会の開始を待っている。
午後0時50分。バス4台が続々と到着した。ドアが開き、中から思い思いのファッションに身を包んだ老若男女が次々に降り立つ。カメラとカタログを持つ人が多く、楽しそうに表情を輝かせている。一足早くレンタカーで駆けつけた会員もいて、定刻午後1時には、ざっと200人ほどの人波ができた。いよいよ募集馬が順に紹介される時間である。
52頭は、東西の預託厩舎が予め決定しており、まず関西所属予定の牝馬15頭からスタート。1頭ずつ血統やセールスポイントが紹介され、並足で歩いた後、比較展示の立ち位置まで移動する。グループ最後の馬が紹介されると会員はそれぞれ目当ての馬のところまで移動して写真を撮ったり、提供牧場の関係者と話したり、馬に触ったりと忙しい。兄や姉を一口所有していたという会員が多いのか、目当ての馬が予め決まっているのか、見ていると人の集まる馬と集まらない馬とではずいぶん差がある気がした。とはいえ、同じ1歳馬でも、例えば市場などで見かける購買者の冷たく鋭い視線などとは異なり、ここではみんなニコニコと微笑んでいる。馬に抱きつかんばかりに近づき「ツーショット」の記念撮影をしている会員もたくさんいた。
これぞ、競馬の醍醐味なのだろうか。あくまで彼らは「一口馬主」であり、本物の馬主とは峻別されている存在だが、しかし、ささやかではあっても1頭の馬に投資し、束の間の馬主気分を味わうことができる。条件さえ整えば、愛馬が優勝した時に「口取り写真」に収まることだってできなくはない。
そうした事情は以前ならともかく、今では牧場側も十分に心得ており、見学に訪れたクラブ会員を冷たくあしらうような不届き者は激減したと聞く。そうであって欲しいし、またそうでなければならない。
この展示会は午後4時半まで行われ、夜は会場を静内町内のホテルに移し、親睦パーティーが開催された。その模様はまた次回に。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。