動画再生回数22万回!ネットで話題のジョッキーが“日本ダービー架空実況”

2018年05月22日(火) 18:01 77

 ある新人騎手のレース実況が「プロ並みにすごい!」とネット上で話題になっています。彼の名前は石堂響騎手(兵庫・長南和宏厩舎所属)。今春、地方競馬の園田・姫路でデビューしたばかりの18歳です。

 幼稚園の頃から家族と競馬場に遊びに行き、「運動音痴だけど、やっぱり騎手になりたくて」と、この道を選びました。「教養センター時代、後輩にも言われるくらい馬乗りが下手」と言いますが、今年デビューの新人騎手の中で勝利数はトップ。15開催日に騎乗し9勝、未勝利の日でも3着以内は確保しています。レース実況の動画再生回数22万回を超えた新人騎手の素顔に迫ります。

武豊騎手に誓った騎手への夢

 大阪府出身の石堂騎手が競馬を見始めたのは5歳の頃。

「幼稚園の先生が競馬好きだったのと、母も昔から競馬が好きだったんです。母と阪神・京都・園田はもちろん、家族旅行ともなれば競馬場のある土地に行きました。新潟、福島、大井、船橋、笠松、名古屋、姫路。初めて園田競馬場に行ったのはリアライズノユメが勝った兵庫ジュニアグランプリで、2着はカネマサコンコルド。ホクセツサンデーも走っていたのを覚えています。姫路競馬場に行った時は、長南厩舎の馬が勝ちました。のちに長南厩舎の所属になるなんて、なんだか奇跡みたいですね」

 それはもう、次から次へとレース内容や馬名が出てきます。彼の少年時代は競馬を中心に回っていたのでしょう。小学4年生の頃には新聞でとある企画の募集を見つけました。

「プロ野球選手やケーキ屋さんといった職業の人に会って話を聞けるコラムで、参加する子供を募集していました。色んな職業が選べる中に騎手があったので応募したら当選! 京都競馬場で武豊さんにお会いして、『馬の気持ちは分かりますか』など質問をしました。でも、緊張して目も合わせられなかったんですよ……」

馬ニアックな世界

▲武豊騎手との出会いで騎手を目指した石堂騎手「緊張して目も合わせられなかったんですよ…」

 勝負服にヘルメット姿で菊花賞2着のマイネルデスポットに騎乗し、武騎手が引き手を持ち一緒に歩いてくれました。武騎手に「競馬学校にがんばって入学します」と誓った石堂騎手は翌年、京都競馬場の淀乗馬スポーツ少年団に入団しました。

「運動音痴なので、騎手には向いていないだろうなと思っていたんです。でも、ずっと競馬場に行っているとやっぱり騎手は目立つ存在で。僕、目立つことがすごく好きなんです。中学生の時には大好きな吉本新喜劇を真似て、オリジナルで喜劇を創作するくらいでした。なので、やっぱり騎手を目指そうと思いました」

 中学3年生でJRA競馬学校を受験するも不合格。高校に進学しましたが、淀乗馬スポーツ少年団時代の先輩・井上真弥さんから長南厩舎を紹介してもらい、地方競馬に進むことを決めました。ちなみに井上さんも長南厩舎からデビュー予定でしたが、体重が厳しくなり地方競馬教養センターを中退。現在は厩務員として働き、担当馬のトランヴェールで昨年は重賞・サマーカップ(笠松)を勝利しました。

 さて、見事地方競馬教養センターに入学できた石堂騎手。しかし、苦笑しながらこう振り返ります。

「卒業する時に後輩アンケートで『一番下手そうな先輩は?』っていうのがあったんですが、僕ともう1人が断トツの同率1位だったんです(苦笑)」

 そこで師匠の長南師は、石堂騎手が他厩舎の調教にも積極的に乗れるようバックアップ。

 そうしてデビューを控えたある日。園田競馬場で開かれた新人騎手紹介式では「吉田勝彦アナウンサーの『ゴォォ~ルインッ!』(ここ、ちゃんとモノマネで)という実況で初勝利を挙げたいです」とプチ実況を披露し、翌週のデビューを迎えました。するとデビュー初日の4月17日、2戦目でいきなり初勝利。実況は吉田アナウンサーでした。現在、デビューして1カ月。まだまだ粗削りなレースが多いですが、ここまで開催日の過半数の日で勝利を挙げ、勝率11.5%は地元6位です。

馬ニアックな世界

▲師匠の長南調教師、積極的なバックアップのおかげもあって現在地元6位

う、上手すぎる…日本ダービー架空実況

 さて、話題のレース動画は5月13日ヴィクトリアマイルのレース後にTwitterにアップされました。載せたのは淀乗馬スポーツ少年団時代からの先輩・井上さん。見る見るうちにリツイートや再生回数は増えていき、多くの調教師や騎手から「動画見たで」と声をかけられたそうです。

「こんなんになるつもりじゃなくて…もっとヒッソリしていようと思っていました」

 肩を小さく丸めてそう話しますが、しっかりした発声や滑舌には驚いてしまいます。

「昔から実況名言集とかは聞いていました。実況の練習という練習はしていませんが…あ、でも他の人に比べたらやっているのかな。ゴールデンウィークにはラジオNIKKEIさんの取材を受けて、憧れの中野雷太アナウンサーの前で実況したんです。緊張しましたが、ご本人にお会いできただけでもう死んでもいいくらい幸せでした(笑)。関西テレビの岡安譲アナウンサーも憧れなんです」

 netkeiba.comユーザーの皆さんのためにも実況を披露していただきました。

 今週はダービーウィークなので、日本ダービーの架空実況。「ちゃんと2分24秒くらいになるように実況したい」という本人の希望で、手元にスマホのストップウォッチを用意しました。ちなみにこれ、一発勝負で撮りました。終了後に「途中、位置取りとかがグチャグチャになってしまいました……」と悔しい表情を浮かべましたが、いかがでしょうか?

 本業は騎手。それもデビューしたばかり。

「今は3kg減があるから勝てているだけです。(長南)先生に調教の時から教えていただいているのですが、騎乗フォームをカッコよく決められるようになりたいです。あとは、前に行くことも意識しています」

 見守る長南師は「私も(井上)真弥も、体重が重たくて騎手を諦めました。響は2人の夢を背負っています。コツコツやって伸びるタイプの子だと思うので、できる限りのことをしてあげたいですね」といいます。

 お母様・緑子さんと妹・浅黄さんの名前からデザインした勝負服を身に纏い、競馬少年の夢は駆けていきます。

馬ニアックな世界

▲お母様・緑子さんと妹・浅黄さんの名前からデザインした勝負服で、明日のトップジョッキーを目指す

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大恵陽子

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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