2005年07月12日(火) 11:49 0
今年も苫小牧市のノーザンホースパークを会場に「セレクトセール2005」が7月11日と12日の2日間にわたり開催されている。CS放送「グリーンチャンネル」などでセールの模様をご覧になった方も多いだろう。あいにく初日は午前中に雨が降り、決して良いコンディションとは言い難かったのだが、そんなことはもうこのセールには大して関係ないのである。実はこれを書いているのは12日朝で、これから2日目のセールが行われるところだが、初日を見た段階で、今年もこのセールだけは健在であることを強く印象付けられた。
上場馬の質と頭数の双方においてわが国ではこれを凌駕する市場がないのはもちろんだが、交通アクセスの良さ、旅情をくすぐられるようなロケーション、購買者への対応など日高の市場とはまるで趣を異にする。この差はおそらく埋められないのではないか。
購買者の多くは飛行機でやってくる。北海道の空の玄関千歳空港からここノーザンホースパークは本当に指呼の距離だ。シャトルバスも用意されており、あっという間に会場到着である。近いのでタクシー料金も安い。千歳で降りて延々と日高路を静内まで移動するのと比較するとまずここで地の利の差が如実に出て来る。
ノーザンホースパークは乗馬リゾートとして知られる。整備された広大な敷地全体がいわば観光客を迎え入れることを想定している。樹木が多く、美しい風景が広がっており、こうした環境がセールの高級感を側面から巧みに演出している。「ここで馬を見ているとみんな良く見えてしまう」と東京から訪れた知人がしみじみ言っていたが、これは紛れもなく実感だろう。
飲食に関しても、セレクトセールは基本的に無料である。バイキング形式でトレーを受け取り各々が好きなものを盛り付けてもらう。テントが立ち並び、椅子とテーブルが用意されていて、そこで三々五々くつろぎながら食事を楽しむ。そのテントだが、VIPの購買者には、それぞれ「○○ご一行様」のネームプレートが掲げられた専用テントが用意されており、さながら芸能人の楽屋のごとき光景である。こうしたことも購買者の満足度を高める配慮である。もちろん、セールの行われる会場に並べられた椅子にもそれぞれ名前が入っており(だから空席も多いのだが)基本的に購買者は自分の席が予め決められている。日高の生産者を含めた一般の見学者は仮設スタンドの外野席に腰を降ろす。
ところで注目度の高さではダントツのこのセールは、当然マスコミの取材も多く、普段日高では見かけないような人がかなり大挙して訪れる。各新聞や雑誌、テレビ局などのために専用の撮影台まで用意されているのには驚いた。1億円以上の落札馬が出た時には一斉にカメラのシャッター音が集中した。
せり落とされた上場馬が外へ出てくると、待機馬房に戻る前に「撮影場所」が用意されていて、そこで立ち姿を撮ることができる。高額落札馬がそこにやってくると数十人ものカメラマンがひしめきあいながらレンズを向ける。さながら中央競馬GIレースの後のような光景だ。
初日の結果を見ると、例年以上に社台グループの上場馬が好成績を残していたと思う。改めてネット上で落札結果を検索してみたのだが、社台グループの上場馬は初日完売だったのではなかろうか。サンデーサイレンス産駒不在となって2年目、また高額馬の落札で知られる関口房朗氏の姿がないことなど不安材料もないではなかったと思うが、初日を終えてみれば、157頭中128頭が落札され、売上げは46億3680万円(税込み)。売却率は81.5%。昨年と比較しても、売上げで4億円以上、売却率で約5%近くも上回った。結局のところ、これは「ディープインパクト&シーザリオ効果」というわけか。
さながら壮大な“野外劇”を観ているような気にさせられた。ここにいると、相次ぐ地方競馬の廃止のことも疲弊する生産地のことも、まるで別世界の出来事のように思えてしまうくらいだ。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。