2018年08月21日(火) 18:00 14
◆騎手は騎手、調教師は調教師という傾向強まる
今年も間もなく1年の2/3が過ぎようとしているが、騎手・調教師のランキングを見ると、全国的な視点でも、地区ごとの視点でも、昨年までとはかなり変化が起きている。以下はすべて8月19日現在の成績で、日常的に交流している南関東、東海地区は、競馬場ごとではなく地区ごとのランキングを示した。また人名が多数出てくるので、「騎手」「調教師」という敬称(?)は省略させていただく。
騎手の全国リーディングでは、依然としてトップは兵庫の吉村智洋。吉村はこれまで兵庫リーディングでも昨年の3位が最高で、もちろん全国リーディングとなれば初めてのこととなる。現在、吉村180勝に対して、2位の森泰斗(船橋)は163勝。森は5月から6月にかけて怪我のため戦線離脱していた時期があったので、復帰すればその差は詰まるだろうと思っていたが、そうでもない。森がすでに怪我から復帰していた6月末日の時点で吉村147勝、森135勝だったから、その差は詰まるどころか広がっている。しかしながら兵庫より南関東のほうが開催日数は多く、残り4カ月ちょっとで、さてどうなるか。
そして調教師でも、これまた初めての打越勇児(高知)が全国のトップに立っている。高知ではこれまで雑賀正光が絶対的な存在で、2011~2014、2016年と5度の全国リーディングとなっており、2012年には地方競馬の調教師としては歴代最多となる年間290勝という記録もつくった。それが今年はここまで打越133勝、雑賀101勝。これが全国の1、2位でもあり、32勝差という決定的な差がついている。
さらに調教師リーディングを見ていて気づいたのは、全国で40歳台の若い調教師の活躍が目立っているということ。地区ごとの調教師リーディング1位を並べてみる(カッコ内は生年)。
ばんえい:坂本東一(1953)
北海道:田中淳司(1972)
岩手:板垣吉則(1972)
南関東:小久保智(1971)
金沢:鈴木長次(1947)
東海:笹野博司(1974)
兵庫:飯田良弘(1977)
高知:打越勇児(1972)
佐賀:九日俊光(1960)
ばんえい、金沢、佐賀を除く6地区のリーディングが1971~1977年生まれ(今年誕生日が来ていれば41~47歳)という、調教師としては比較的若い人たちに集中している。
田中淳司(北海道)は、2015年から昨年まで3年連続でトップで、今年もとなれば4年連続。今年は先日中央の1000万特別を勝ったハッピーグリンが注目となっている。
板垣吉則(岩手)は、2014~2016年に3年連続で岩手トップとなっており、昨年は惜しくもわずか1勝差で2位だった。8月12日には2歳重賞・若鮎賞をマリーグレイスで制して通算600勝。現地の情報によると、岩手の調教師としては最速での600勝達成ではないかとのこと。
小久保智(浦和)は、2012年から昨年まで6年連続で南関東のトップに君臨し続けている。しかも南関東では他の追随を許さず、単独での100勝超。キャリアハイは2016年の145勝だが、今年もすでに99勝を挙げているだけに、その自身の記録を更新する可能性がある。さらに賞金リーディングの全国1位も昨年まで4年連続。また南関東2位にも大井・藤田輝信(1976年生)が台頭してきている。
東海地区1位は笹野博司(笠松)で、2005年から昨年まで13年連続で東海地区のトップに立ち続けていた角田輝也(名古屋)の牙城を破るかもしれない。ただ現在5勝差だけに、逆転して14年連続という可能性もある。さらに東海地区では川西毅(名古屋・1972年生)が2008年から昨年までの10年間で6回、勝率で全国1位となっている。今年もここまで29.8%で1位だが、森澤友貴(兵庫・1973年生)、打越勇児(高知)が28%台で続いているので、まだわからない。
そして今年一気に世代交代が進みそうなのが兵庫。今年ここまでトップに立っているのが飯田良弘で、一昨年、昨年の兵庫4位から一気に台頭。そして2位・森澤友貴、3位・新子雅司、4位・盛本信春、5位・橋本忠明、6位・高馬元紘と、上位6位までを1970年代生まれが独占している。
高知の打越勇児については最初に触れたとおり。今年ここまで高知では2歳新馬戦が2戦行われたが、ともに打越厩舎所属馬が勝っていることでも、その勢いを示している。
佐賀では1960年生まれの九日俊光が1位だが、目下2位の東眞市(1972年生)は2012~2014年に3年連続で佐賀のトップに立ったことがあり、その後も毎年佐賀で4位以内はキープしている。
ちなみに今年ここまで各地でリーティングのトップに立っている1970年代生まれの調教師6名のうち、騎手経験者は板垣吉則(岩手)だけ。近年では外厩システムの発達などもその要因と考えられるが、調教師には直接馬を見るよりマネジメント的な能力が求められるようになってきている。調教師として一流になるには、若いうちからそれを目指すべきということでもあるだろう。
板垣は上山時代に騎手リーディング1位の経験があり、ほかにも角川秀樹(北海道・1959年生)のように、騎手でも調教師でも地区リーディングのトップを獲得したという人もいるにはいるが、近年では、騎手は騎手、調教師は調教師という傾向はますます強くなっている。先日、地方競馬通算勝利数の記録を更新した的場文男(大井)だけでなく、南関東ではほかに石崎隆之(船橋)、森下博(川崎)らはいずれも還暦を過ぎた今でも現役。若い調教師が台頭する一方で、一時代を築いた騎手が調教師にはならず、生涯一騎手を貫いているということもその象徴だろう。
とにかく若い調教師の全国的な活躍は、“あっぱれ”といえよう。
斎藤修
1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。