週刊サラブレッド・レーシング・ポスト

2005年08月30日(火) 11:41

 欧州における今季のメジャーなイヤリングセール・サーキットの開幕戦となる、『エージェンシーフランセーズ・ドーヴィル・オーガスト・イヤリングセール』が、8月21日から24日の4日間にわたって、フランス・ノルマンディー地方のリゾート地ドーヴィルで開催された。

 市況は、総売上げが前年比21.1%ダウンの22,485,000ユーロ(約31億円)、平均価格が前年比9.1%ダウンの69,613ユーロ(約960万円)、前年26.8%だったバイバックレートが今年は27.3%と、発表されたすべての指標が下を向く結果に終わった。

 前年よりも上場頭数が1割近く減少したため、ある程度の売り上げ減少は折り込み済みだったとは言え、2割以上ものマーケット縮小は明らかに想定外。バイバックレートがほぼ前年並だったのは救いだが、平均価格の10%近い下落というのは、市場関係者にとって大きな打撃だった。

 市場低迷の主要因としては、品揃えにバラつきがあったことが挙げられている。

 1歳市場における購買の判断基準には、大きく分けて3つある。1つは、血統。1つは、馬体。最後が、獣医師による診断だ。理想はその3つのファクターがいずれも完璧なことで、そういう馬がいれば複数の購買者による争奪戦になって高値になるのだが、なかなかそんな馬は居ないのが現実。欠陥や減点材料があったとしても、それが目を瞑れる範囲のものなら目を瞑って、予算と相談しながら購買に向かうことになる。

 その一方で、当然のことながら、目を瞑れない欠陥や減点材料もあるわけで、そういう馬は、他のファクターがどんなに優れていても、購買には踏み切れないものだ。今年のドーヴィルセールは、血統、馬体、獣医検査の3つのファクターがいずれも及第点に達していた馬が意外に少なく、そういう意味で『品揃えにバラつきがあった』のだ。言葉を変えれば、「血統は素晴らしいのだが、馬が貧弱なんだ」とか、「血統も馬体も及第点だったのだが、獣医検査で心配な点が見つかってね」という声が、購買者サイドから多く聞かれたのである。ことに、良血の牝馬に看過しがたい姿勢欠点が見受けられるケースが多く、マーケットが強ければそういう馬たちにもそこそこの値段が付くこともあるのだが、今年のドーヴィルではそんな馬たちが、全く見向きもされずに終わってしまったのである。

 最高価格は、セール2日目にメゼレイ牧場から上場されたHip#213の牝馬。愛オークス3着馬シスターベラの妹で、香港ヴァーズ勝ち馬ヴァリーアンシャンテや、今年のコロネーションS勝ち馬メイズコウズウェイらが近親にいる牝系。これに今、最もファッショナブルな種牡馬の1頭であるモンジューを配合された馬で、激しいビッドの応酬の末、アメリカ人馬主のリック・バーネス氏が58万ユーロ(約8000万円)で購買。バーネス氏がアイルランドに所有するグランジ・コン・スタッドで馴致育成を施された後、シャンティーのリチャード・ギヴソン厩舎に入る予定となっている。

 牡馬の最高価格は、初日に上場された父ロックオブジブラルタルの牡馬(Hip#34、母クララボウ)。マクトーム兄弟の中で唯一御当人が参戦したハムダン殿下のシャドウェル・スタッドが、50万ユーロ(約6,900万円)で購買した。

 さて、日本の競馬ファンの皆様にとって気になる日本人購買だが、先々週のこのコラムでお届けしたファシグティプトン・サラトガに次いで、ここもゼロ。サラトガ同様にドーヴィルも、日本人購買はこのところ毎年1・2頭というレベルだっただけに、びっくりするほどのことではない。だが、9月12日からのキーンランド・セプテンバー、10月4日からのタタソールズ・オクトーバーと、これから迎える欧米イヤリング・マーケットの山場でジャパンマネーがどう動くか、例年以上に気になる情勢となっていることは間違いなさそうだ。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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