【地方競馬ネット会議室(6)】NAR公正担当理事に聞く 事案の経緯と危機意識/後編

2019年02月27日(水) 11:59

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▲後編は門別で発生した誤審問題と公正とシステムの関連性について

門別の着順誤審、初の事例で対応に遅れも

矢野 もう1つあったのは、これは突発的な事故と言ってしまってはいけないかもしれませんが、門別の誤審がありました。私は翌日の新聞で写真を見ましたが、一瞬どういうことだかわからないような映像で、パッと見ただけでは、あれ、どこがおかしいんだろう?というふうにも思えるような写真だったですね。確か、外の馬の手綱が伸びていて、外の馬の鼻のほうが前に出ているようにも見える写真でした。でも実際には内の馬が勝っていた、と記憶しています。

 本当にあのへんは、写真判定するにも慎重の上にも慎重を期さなきゃいけないと、あの写真を見て改めて思ったんですけれど、誤審の再発防止策ということで言うと、どんなことをお考えですか。

生野 まずはおっしゃるとおり、わかりにくい写真ではありましたが、(反対側からの映像が見られるように)鏡がつけてありますから、鏡に写った映像も確認できたと思います。着差としてはスリット半分ぐらいの着差でした。

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▲18年11月2日門別競馬リリース資料より

 判定写真についてはデジタル化されていますので、必要に応じて画像を拡大して判定することができます。今回の場合はそういった手順においても確認が足りなかったということだと思います。

 門別では決勝審判2名で業務にあたっていましたが、緊急対応として、その次の開催から、決勝審判2名を交替させ、さらにNARから1人を増員派遣しまして、3名体制でより慎重に業務にあたりました。

 再発防止策として本年のホッカイドウ競馬開幕前までに、到達順位を判定する決勝審判室とレースの監視を行っている裁決室をワンフロアー化して、しっかりお互いにきちんと確認ができるように整備する。また、人員も3名体制として確認体制をより強化することも聞いています。

矢野 もう1つ、この件では、初めてのことなので起きた後にどう対応していいかわからなかった部分がかなりあったと思うんですね。

生野 そうですね。各方面から厳しいご指摘を受けたのが、誤審発生後の対応です。何しろ初めてのことでしたので、どう対応していいかわからないという状況の中で、記者会見が翌日の夕方になってしまいました。

矢野 真っ先に記者会見して、こういう事象がありました、今後はこういうふうにやりますと先に言ったほうがよかったのではないかと……。

生野 主催者としても初めてのことで、どう対応してよいかわからず、十分な検討が必要であったのではないかと思います。払戻しの問題とか、さまざまな事後処理の問題が出てまいりますので、混乱を招かないよう検討に時間がかかったのではないかと思います。

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▲「主催者としても初めてのこと。混乱を招かないよう検討に時間がかかったのでは」

矢野 それで、その対応策をしっかり整えた上で記者会見をしたという経緯ですね。

生野 そういった中でできる限り速やかに会見を開いたものと理解をしています。

一連の事例にファンの反応は

矢野 実際のところ、門別でそういうことがあった、あるいは浦和でそういうことがあった、岩手は開催中止にまで追い込まれてしまった、という状況の中で、ファンの方々の反応というか、そういったことに対するご意見など、NARに直接寄せられているようなものはありますか。

生野 ホームページを通じて様々なご意見をいただきました。特に岩手の場合は、主催者を責めるご意見、ちゃんとした管理体制がとれないのかという厳しいご意見もありますけれど、逆に主催者は被害者ではないかというようなご意見もいただいております。

矢野 確かに、本当にそういう出来事に一切関係なく、本来の業務をしっかり粛々と着実にやってこられた方にとってみれば、明らかにそれはその立場の人たちは被害者でしょう。仕事ができない、収入がなくなるわけですから。そういう視点でファンの方が競馬を見てくださっているということも、ある一面、出てきたかなという感じはありますね。今までだったら何しているんだ、で終わっちゃったんですが、そういう意味ではありがたいファンたちが増えていると思います。

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▲岩手の一件では擁護の声も「ありがたいファンたちが増えていると思う」

生野 そうですね。岩手の場合は発生事象も特殊なケースだと思います。

矢野 体制も一生懸命整えて再開にこぎつけて、またその矢先にということなので、そのへんの努力の部分はファンの方も見ていただいているんだろうと思います。馬券の売り上げそのものには、全国的に見ればそれほどの影響はないのですか?

生野 岩手の場合は開催を取りやめておりますし、大きな影響が出ております。これらマイナス面のできごとが売上げに影響していないとは言えません。ただ、現在のところ、全国的には前年度比較での顕著な減少は見られておりません。

矢野 それは、ファンの皆さんが、今行われている競馬に関しての信頼性はあるというふうに認識されて、馬券を買ってくださっているんでしょう。

生野 そう願いたいです。先ほどちょっとお話ししましたけれども、横展開という話の中で、今回対象になっていない主催者においても、やはり公正確保対策の徹底ということで、できることから順次取り組んでいる状況です。

矢野 例えばどこかの競馬場で具体的にこういうことを始めたとか、こういう体制を整えたとか、そういうお話があったら伺っておきたいのですが。

生野 先ほど監視カメラの話をしましたが、これはそれぞれの主催者で早急に整備することとしていますし、NARとしても、来年度監視カメラの設置を強化するための施策をとっていきたいと考えています。

矢野 今まで施設の充実ということで言うと、ファンエリアの快適性・耐震性というところであるとか、それから厩舎の職場環境の整備ということに結構目が行きがちだったのが、これで公正確保の部分でも施設改善が必要であるという認識が芽生えてきた。災いを転じてじゃないですけれども、始まっているということでしょうね。

生野理事の業務に見る、公正とシステムの関連性

生野 私は活性化推進、公正、システム関係というようなところを担当していますが、システムについては、昨年9月にシステムトラブルにより園田競馬が1日できなかったという大きな事故が発生し、お客様に大変ご迷惑をおかけした事象がございました。

 馬券の発売システムに不具合が発生したことが原因でしたが、お客様に競馬を楽しんでいただくという観点からは、公正確保もしかり、当然ながらそういったシステムの安定した構築・運用がなされないと、この馬券を買いたいんだけれど買えない、払い戻しもできないなど、非常にご迷惑をおかけすることになります。お客様に安心して地方競馬を楽しんでいただけるよう、競馬の公正確保対策とともに、システムの安定運用もしっかりやっていきたいというふうに思っています。

矢野 それについては、万全を期したつもりでも、ということがありますよね。だからこそ、去年の携帯電話の通信障害とか、銀行でもATMを休止して対応、なんていうことも起きています。ITというのは気がつかない部分でとんでもない反応をしますから、便利な一方で恐ろしい。

生野 そうです。今年は改元もございますので、それらを含めてしっかりやっていきたいと思っております。

 また公正確保対策についても、NARが主導的な役割を果たしながら、お客様に安心して競馬を楽しんでいただけるよう、地方競馬関係者全体で取り組んでいきたいと考えています。netkeibaさんをご覧いただいている皆様、地方競馬を楽しんでいただいている皆様から貴重な意見をいただきながら、さらに楽しんでいただけるような地方競馬を目指していきたいと思っています。

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▲「公正確保対策もNARが主導的な役割を果たしながら、さらに楽しんでいただける競馬を目指したい」

――編集担当 ファンの方はもちろんですが、今回の薬物問題では、一部の活躍馬が移籍を選択せざるを得なくなってしまった、馬主の方は持ち馬が一定の期間レースに出られなかった、など競馬を開催する上で欠かせない方たちにも大きな影響があったかと思います。

生野 おっしゃるとおり、所有馬の出走を楽しみにしていらっしゃる馬主さんには、所有馬がレースに出走できない、他場に遠征できないということで大変なご迷惑をおかけしております。原因究明をしている中で他場に遠征をして、さらなるご迷惑をおかけするということがあってはならないということもございます。

矢野 そういえば、話が逆になってしまいましたが、生野理事の自己紹介をお伺いしていませんでしたね。

生野 私は昭和56年にNARに採用になりまして、それから、12年ほど公正関係の業務に携わっていました。具体的には決勝審判員や裁決の助手、そういった業務をやっていました。

 その後は主に企画部門の業務に携わっておりました。矢野さんはご存知と思いますが、九州3場(佐賀、荒尾、中津)がまだ健在のときに、売り上げがどんどん下がっていく中で、南関東を参考に九州3場が協力をして、"1本場2場外"を原則に番組を調整したり、お互いに馬を共有したりして九州競馬を立ち上げたという、そういった事例がありました。ちょうど九州競馬がスタートした平成12年に佐賀競馬場に駐在し、そのお手伝いをさせていただきました。ただ、中津競馬の廃止で構想が崩れてしまいましたが…。

 その後、競馬法の改正を控えて、地方競馬全体で発売システムの統一ができないかというような話が持ち上がって、そこから地方競馬共同トータリゼータシステムという発売システムの検討に取り組んで参りました。

 競馬法が改正されて活性化事業が措置されると、JRAの協力をいただいて地方競馬のシステム整備ができるようになったということで、発売システムだけではなくて、全国的なネットワークシステムを始めとする基幹インフラシステムを一手に担う部署が必要ということで、平成27年にシステム事業部が新たに設置され、私はそこでシステム関係の業務を担当してまいりました。

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▲地方競馬の公正の業務から、共同システムの構築に携わってきた生野理事

矢野 馬券発売にしてもデータ管理にしても、今やそういうものなくしてそれぞれの地方競馬が成り立たない状況になってきていて、ますますシステム管理・更新の部分が重要な役割ということですね。それぞれの競馬場にとっては、そこが死活問題?

生野 全国的なシステムということで、ひとつの競馬場での障害が全国に波及することもあります。私ども、システム構築・運用の事務局として不具合がないようにしっかりやっていかなければなりません。

――編集担当 システムの成り立ちからずっと携わっていらっしゃるんですか?

生野 全国的なシステムを構築する準備段階からかかわらせていただきました。システムを構築するに当たって主催者間でいろいろ協議していくわけですけれども、その全国会議の議長が現在の塚田理事長で、これをまとめ上げるのに本当にご苦労され、事務局も助けていただきました。

 平成17〜18年ぐらいから検討を始めて、平成24年にシステム構築が完了しました。その間、平成22年に非常に大きな新たな動きがありました。JRA、全国公営競馬主催者協議会、NARの3者が12月に共同記者会見を行いまして、平成24年度下期からのJRAの電話投票システムを活用した地方競馬の競走の発売、地方競馬の施設を利用した中央競馬の競走の発売拡大について発表がありました。そういった発表を受けて、システム的にも対応できるようにやってきたという状況です。

矢野 理事長のご苦労を間近でご覧になっていたということで、その中でこんな大変なことがあったというようなことは?

生野 そこはやはり各主催者それぞれ考え方も違いますからね。当時南関東はすでに発売システムを共同化していましたが、その他の主催者はそれぞれ独自のシステムを持っていました。

矢野 独立していた。

生野 12のシステムがありましたが、それをひとつにまとめるということで、当然主催者によってベンダーも異なりますし、運用も異なっていました。また、当時は売り上げの減少により、主催者は非常に厳しい財政状況の中にありましたので、システムの構築費用、運用費用をどのように負担していくか大変な時間をかけて検討しました。議長として大変ご苦労なされたと思います。

矢野 われわれみたいな古い人間、システムが全国で統一される前を知っている人間からすれば、別々だったから、そこで買える馬券がそれぞれいろいろ特徴があって、それが地方の個性でおもしろかったんですけれど(笑)。今はどこへ行っても同じ馬券だから、そういう意味で言うと地方色はなくなっちゃいましたね。でも、全国で統一されたものがあって、JRAとの連携があったからこそ、大変な危機を乗り越えられたということですよね。それがなかったら今ごろどうなっていたかということですね。

生野 そのとおりです。

――編集担当 今日お話を伺っていて、公正確保とシステムの改善には相通じる部分があるんだな、と思いました。

矢野 私もそう思います。きょうは大変な状況の中で、いろいろお話いただき、ありがとうございます。

生野 最後に、公正確保・コンプライアンスの遵守ということに関しては、外部から有識者をお招きして講演していただくなど、厩舎関係者への注意喚起・意識改革にも取り組んでいます。来年度は特に禁止薬物に特化した研修を第一にやっていくことにしております。厩舎関係者だけではなく、主催者の要望に応じて、馬の輸送業者さん、飼料業者さん、警備業者さんにも研修の対象を広げていきたいと考えております。

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▲今後は研修等を通じて、公正確保・コンプライアンス遵守への意識改革も行う

矢野 それは確かに重要な取り組みですね。期待しています。

生野 今後も公正確保、システムの安定運用については最重要課題と位置づけて最優先で取り組んで参ります。ファンの皆様からの貴重なご意見をいただきながら、安心して楽しんでいただける地方競馬にしていきたいと思っておりますので、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

※次回は3月末の掲載を予定しております


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