2019年03月28日(木) 12:00 38
今週末の大阪杯に出る馬たちの血統を眺めていると、懐かしいシーンが脳裏に蘇ってきた。
キセキの祖母ロンドンブリッジと、エアウィンザーの祖母エアデジャヴーが戦った、1998年春の牝馬二冠である。
まずは桜花賞。
1番人気に支持されたのは、シンザン記念とチューリップ賞を連勝してここに来た、芦毛のダンツシリウスだった。父は、私が初めて惚れ込んだ芦毛の名馬、タマモクロス。
2番人気は3連勝で前走のクイーンカップを制したエイダイクイン。これも芦毛で、父はメジロマックイーンだった。
3番人気は武豊騎手のファレノプシス。キズナの15歳上のお姉さんである。
好スタートを切ったダンツシリウスをじわっとかわして、松永幹夫騎手(当時)のロンドンブリッジがハナに立った。
ファレノプシスは好位の内。横山典弘騎手のエアデジャヴーは、先頭のロンドンブリッジから10馬身ほど離れた後方に控えた。
ロンドンブリッジが先頭のまま直線へ。松永騎手の右鞭に応えて末脚を伸ばす。
馬場の真ん中からファレノプシス、その外からエアデジャヴーが伸びてくる。
ファレノプシスが鮮やかに差し切り、58代目の桜の女王となった。
2着は、内で粘ったロンドンブリッジ。エアデジャヴーは3着。1番人気のダンツシリウスは11着、2番人気のエイダイクインは6着に終わった。
この勝利が、ファレノプシスの生産者ノースヒルズ(当時はマエコウファーム)にとって初めてのGI制覇となった。
そして、オークス。
1番人気は桜花賞馬ファレノプシス、2番人気はエアデジャヴー、ロンドンブリッジは、母の父ダンジグという血統や、1200~1400mで3連勝したスピードタイプだったことから距離を不安視され、4番人気にとどまった。
ロンドンブリッジが逃げてスローに落とし、1000m通過は1分2秒8。ファレノプシスとエアデジャヴーは後方14、15番手に待機した。
3、4コーナーを回りながら、ファレノプシスが進出を開始。
桜花賞同様、ロンドンブリッジが先頭のまま直線に入った。
道中は好位につけ、3コーナーでいったん下げた的場均騎手(当時)のエリモエクセルが、馬場の外目から猛然とスパートする。
ファレノプシスとエアデジャヴーは、やや遅れた外から追い上げる。
ラスト200m。まだ最内でロンドンブリッジが粘っている。が、次第にスピードが落ち、沈みはじめる。
替わって、エリモエクセルが先頭に躍り出た。ファレノプシスとエアデジャヴーが猛追してきたが、すでに決定的な差がついていた。
勝ったのはエリモエクセル。1馬身1/4差の2着にエアデジャヴー、半馬身差の3着がファレノプシスだった。ロンドンブリッジは10着に敗れた。
なお、このレースで11着だったアドマイヤサンデーは、のちにフサイチホウオー、トールポピー、アヴェンチュラなどを産む名牝となる。
ロンドンブリッジは、これだけスローに落としながら粘り切れなかったのだから、本当にスタミナが不足していたのだろう。
しかし、繁殖牝馬となってディープインパクトを配合され、8番仔とし生まれた牝馬ブリッツフィナーレにルーラーシップを付けて誕生したキセキが菊花賞を勝ってしまうのだから、血統というのは面白い。
それに、今、お祖母さんとしての話ばかりしているが、初仔のダイワエルシエーロはオークス馬となり、2番仔ビッグプラネット、10番仔グレーターロンドンも重賞を勝っており、お母さんとしても素晴らしい。
一方のエアデジャヴーは、弟のエアシャカールがクラシック二冠を制覇し、初仔エアシェイディがアメリカジョッキークラブカップ、2番仔のエアメサイアか秋華賞などを優勝。そのエアメサイアの最後の仔であるエアウィンザーが、この大阪杯で、自身の母系にもうひと花咲かせることができるか、注目したいところだ。
キセキもエアウィンザーも角居勝彦厩舎の所属馬である。この先、どんな物語をつむいでいくのか、楽しみに見守りたい。
島田明宏
作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆~走れ奇跡の子馬~』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。
関連サイト:島田明宏Web事務所