2005年10月11日(火) 20:34 0
10月10日より、静内で「オータムセール」が始まっている。今年最後の市場に賭ける生産者はかなりの数になるものの、厳しい状況は依然として変わりない。
体育の日と重なった10日は、当歳市場が開催された。239頭上場(牡173、牝66)で、46頭(牡36、牝10)が落札。売却率は前年26.42%に対し、今年は19.25%。売上げ総額も前年の5億5671万円に対し、今年は3億6487万5千円に止まり、マイナス1億9183万5千円と、大きく落ち込んだ。
そして今日11日から14日までの4日間で1歳市場が開催される。初日の終了した時点では、175頭上場(牡68、牝107)された中で、落札は45頭(牡18、牝27)、売却率は、25.71%となった。
昨年のオータムセール初日と比較すると、昨年は271頭(牡126、牝145)の上場で74頭(牡38、牝36)の落札、売却率27.3%だったので、今のところ、やや数字を落とした程度と言えるかも知れない。ただ、問題は、明日以降の3日間で、果たしてどれだけ売れるか、ということに尽きる。
気になるのは、相変わらず、欠場馬が多いこと。しかも、「見たいと思わせるような血統の馬に限って、欠場している」(東京在住のある馬主)点である。結果的に、めぼしい馬が揃って欠場しているようなセールでは、購買者離れにますます拍車をかけることになるのだが、しかし、生産者の心理から言うと、8月のサマーセールでさえ、売却率が3割にも満たない状態では、とても自信を持ってオータムセールに臨めない、ということになる。名簿が出来上がり、購買者の手元に名簿が届けられる。すると、そこでチェックされ、市場を待たずに庭先で買われてしまう馬も実のところ多いのだ。
「客がついた時に売ってしまわなければ、絶対に後で後悔することになる」。日高にいると、こんな台詞をよく耳にするが、これはやはり馬の売買における一面の真実を端的に表しているだろう。結果的に“架空取引”に終わったものの、他ならぬ私自身もまた、去る9月1日の段階で、オータムセールへ申し込み済みだった1歳馬を、庭先で売却する決意を固めた。その前日(8月31日)で市場申し込みの「取り消し期間」が終了していたのだが、実際に取引を持ちかけられると、「後のことはさておき、まず売れるうちに売ってしまおう」とついつい考えてしまい勝ちなのだ。市場欠場のためには、当該馬の診断書が必要になる。さもなくば、欠場のペナルティを課せられる。しかし、実際に、売買契約が成立しそうになれば、後のことまで考える余裕がなくなる生産者が多いのである。
今日の上場予定馬は、全体で220頭。数えて見ると45頭が欠場していたことになる。もちろん中には、疾病や怪我などによる欠場馬もいるだろうとは思うが、やはり庭先ですでに売却してしまっている馬が多いのではないだろうか。
さて、余談だが、今回の市場の数日前、知人のある馬主から電話があり「買いたい馬がいるので市場で競り落としてもらえないか」という依頼を受けた。予算は400万円。種牡馬は指定されており「アドマイヤボスの牡馬」ということである。
名簿を見ると、それが11日(つまり今日)に2頭、上場されることが分り、さっそく朝から静内へ出かけた。
生産者名は省略するが、この2頭のアドマイヤボス産駒は、かなり対照的な体型で、私が良いと感じた方は飛節の骨片除去手術をしていることが判明した。とはいえ、こちらは母馬がかなり走った実績馬で、ともに400万円ではいささか厳しいかも知れない、と思いながらも競りに臨んだ。結果は、620万円と450万円。聞けば、アドマイヤボスの産駒は、今年の2歳が初年度産駒だが、なかなか好成績を挙げているらしい。その一方で、今年1歳になる(血統登録済みの)世代の産駒は、わずか42頭しかいないため、いわば、やや“注目馬”となっていたようだ。
JBISによれば、9月25日現在の「2歳馬サイアーランキング」で、アドマイヤボスは総合12位と健闘している。29頭が出走し、10頭で14勝を挙げ、重賞勝ちも1つ記録している。種付け料を考えれば、これは目下のところ期待以上の競走成績と言えるだろう。日高軽種馬農協の所有する種牡馬では久々に「当たった」のではなかろうか。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。