繁殖馬セール

2005年10月24日(月) 21:12 0

 10月20日(木)、静内の北海道市場にて「繁殖馬セール」(主催、株式会社ジェイエス)が開催された。

 繁殖馬セールは、血統の更新や繁殖牝馬の入れ替えなどを検討する生産者や馬主が、繋養する繁殖牝馬を売却したり、あるいは新たに購入したりする場である。曇り空で肌寒く、時折小雨も降るあいにくのコンディションだったが、市場内は前週のオータムセールとは比較にならないほどの多くの関係者がつめかけ、かなりの盛況ぶりだった。

 各馬の展示は午前9時。今年出産した繁殖牝馬もすべて産駒を離乳させ、磨き上げられている。セリ開始は午前11時。それに先立ち、来場者に昼食の弁当が配られた。

 定刻を少し回った頃に私も市場内へ入ってみたが、いやはや固定椅子のおおよそ3分の2は埋まっているではないか。ガラガラで空席ばかりが目立ったオータムセールとは大変な違いだと驚いてしまった。顔見知りの生産者もかなりいて、熱気が充満している。先行き不透明な時代だと言われるものの、ここで新たな繁殖牝馬を求めたい、という意欲に溢れた生産者がまだかなりたくさんいることに正直救われる思いもあった。

 市場の外で門別に住む知人の生産者がこんなことを言っていた。「牧場を廃業するんだ、もう馬はやめるんだ、なんて普段から言っている隣近所の連中がみんな来ている。そして購買者登録をしている。あいつら、やめるどころか今日ここで繁殖牝馬を買う気なんだ。やっぱり馬は簡単にやめられないってことなのかな」。まあ、そんなところかも知れない。

 市場は、参加者の熱気そのままにかなりの盛況だった。147頭が上場され、落札は95頭。売却率64.63%。売上げ総額は2億9202万6000円。1頭平均307万3958円と、オータムセールのサラブレッド1歳馬よりも高くなった。

 最高価格は111番、「エアシビュラ」の2467万5000円。千歳産の9歳馬。ホワイトマズルを受胎しており、来年の出産予定日は4月12日。競走成績は入着のみだが父トニービン、母アイシーゴーグル(3勝)、母の父ロイヤルスキー、兄に種牡馬エアジハードがいて祖母はオークス馬シャダイアイバーという名血である。産駒は今年までに4頭出産しており、いずれも牡馬で、初子のフジヤマビューティー(父エンドスィープ)は巌流島特別を含む2勝を上げている現役だ。販売者は社台ファーム。

 二番目となったのは、109番「グレイトグレイス」で1942万5000円。千歳産8歳。父グルームダンサー、母スカーレットリボン。ネオユニバースを受胎しており、来春の出産予定日が4月25日。本馬自身の競走成績は地方での交流戦で入着止まりだが、配合種牡馬の人気と年齢の若さ、血統的背景などからセリ上がった。産駒は今年までで4頭出産しており、初子はグラスワンダー産駒のグレイトチャンプ(6戦)である。こちらも販売者は社台ファーム。

 三番目は38番「プリマダンサー」の1680万円。早来産9歳。父グルームダンサー、母ミュゲルージュ、母の父リアルシャダイで本馬自身も3勝(桃花賞、仁山特別)しており、クィーンS(G?)5着という成績を残している。母ミュゲルージュは4勝、母の兄ミュゲロワイヤルは共同通信杯4歳S(G?)を制し種牡馬となった。この馬もネオユニバースを受胎し、来年の出産予定日は5月4日となっている。この馬の販売者はノーザンファーム。

 こうしてみると、高額取引馬ベスト3が、社台グループからの上場馬で占められていることが分る。しかも、社台ファームとノーザンファーム合わせて、計14頭の繁殖牝馬を上場したが、すべて完売という“おまけ”つきであった。さすがに本馬自身が重賞勝ち馬だったり、そこまで行かなくともクラシックの常連だったようなクラスは出て来ないが、日高の生産者にとってはいずれも若い将来性のある素材に映ったということか。社台ブランドへの信仰は依然として根強い。

 そしてもう一つ驚いたのは、岡田繁幸氏の旺盛な購買欲である。三番目の高額馬「プリマダンサー」を筆頭に買いも買ったり計15頭を落札し、この日のトップバイヤーとなった。金額にして、ざっと8000万円。年々拡張を続けるビッグレッドファームは、生産部門もまた同様に拡大路線を歩んでいるようだ。

 それはさておき、この繁殖馬セールでも「良い馬は高い」という原則が変わらないことを強く印象付ける結果だったと思う。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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