2019年08月20日(火) 18:00 14
8月14日に行われた大井の黒潮盃。勝ったのは、唯一他地区からの遠征だった北海道のリンノレジェンド。3番手集団の一角につけると抜群の手応えのまま4コーナーで先頭を射程圏にとらえ、直線を向いて先頭に立つと、直後に迫っていたグリードパルフェを振り切り2馬身半差をつけての勝利となった。
北海道所属馬として初めて黒潮盃を制したリンノレジェンド(c)netkeiba.com、撮影:高橋正和
東京ダービー最先着(4着)で1番人気に支持されていたのがグリードパルフェで、鞍上の笹川翼騎手が、4コーナーで「勝てるような手応えだった」ということだから、それを寄せ付けなかったリンノレジェンドのまさに完勝だった。
黒潮盃は、かつて(1998年まで)は南関東三冠の前哨戦として4月に実施。それが1999年に8月に移行されてからは、南関東の“残念ダービー”的なレースとなった。そして2003年から地方全国交流になると、各地のダービー戦線で勝ち負けを争った有力馬がひとつの目標として挑戦してくるようになった。
2006年から全国の“ダービー”を一時期に集中して実施するようになった『ダービーウィーク』(現・ダービーシリーズ)では、本来、その勝ち馬が目指すべきはJpnIのジャパンダートダービーなのだが、中央の一線級との対戦ではいかにもハードルが高い。それゆえ、ダービーウイーク(ダービーシリーズ)の勝ち馬や好走馬には、黒潮盃を目標とする馬も少なくない。そうした中で、2007年マルヨフェニックス(笠松)、2011年オオエライジン(兵庫)、そして今年のリンノレジェンドが遠征馬としての勝ち馬となっている。
マルヨフェニックスは東海ダービーを制し、ジャパンダートダービーにも出走(12着)、再度大井に遠征しての黒潮盃勝利。その後地元に戻って岐阜金賞も制した。オオエライジンはデビューから無敗のまま7連勝で兵庫ダービーを制覇。ジャパンダートダービーには出走せず、黒潮盃、さらに岐阜金賞、地元に戻って古馬とのA1特別を制し、デビューから無敗の10連勝という記録を達成した。
この2頭は、いわば地元の絶対的な世代チャンピオン。しかし今回のリンノレジェンドは、ホッカイドウ競馬の三冠戦線では、北斗盃5着、北海優駿2着、王冠賞3着と、2歳時も含めて重賞タイトルがないなかでの挑戦だった。しかも王冠賞から中1週という厳しいスケジュールでの遠征で、重賞初制覇を黒潮盃の舞台で達成した。
この勝利は、リンノレジェンド自身にとってはもちろんのこと、ホッカイドウ競馬全体にとっても価値あるものとなった。
というのも、今年ホッカイドウ競馬では史上5頭目の三冠馬が誕生していた。3歳になってからここまで負けなしのリンゾウチャネルだ。北斗盃が2着ジョウランに3馬身差、北海優駿がリンノレジェンドに3馬身差、そして王冠賞では北海優駿で3着だったシベリアンプラウドにクビ差まで迫られたが、中間アクシデントがあって十分な追切ができないなかでのレースだったとのこと。そういう意味では、リンゾウチャネルは圧倒的な能力差を見せての三冠達成だった。
たしかに今年の黒潮盃は、東京ダービーの1~3着で、ジャパンダートダービーでも地方馬だけの着順では上位を占めた3強が不在というメンバーだった。しかしリンノレジェンドも地元門別では、三冠馬リンゾウチャネルにほとんど歯が立たなかったという実力。であれば、リンゾウチャネルがもし東京ダービーに出ていれば勝負になったかもしれないレベルと考えることができる。
ホッカイドウ競馬でデビューする2歳馬が全国区のレベルにあるこのはご存知のとおり。ところが以前は、ホッカイドウ競馬のシーズンが終わると、有力2歳馬は南関東や中央へ移籍してしまうことがほとんどだった。それゆえ、かつての北海道3歳戦線は、2歳時の上位クラスがごっそり抜けたあとの、あまりレベルが高くないメンバーで争われているという状況だった。
しかし近年、冬の間、他地区に移籍していた馬が、新年度の早い時期に北海道に戻ると輸送費の補助金が支給されるという制度ができた。また2016年からは三冠馬に2000万円のボーナスが設定された。いずれも、レベルの高い馬に残ってもらおうという取り組み。これによってホッカイドウ競馬の3歳戦線は確実にレベルアップしている。それが、一昨年に王冠賞を制して以降、ホッカイドウ競馬の絶対王者として快進撃を続けているスーパーステションであり、今年圧倒的な強さで史上5頭目の北海道三冠馬となったリンゾウチャネルのような存在となっている。北海道では世代の2番手、3番手の存在だったリンノレジェンドが大井の黒潮盃を制したこともその表れといえるだろう。
リンノレジェンドは再度大井に移籍する可能性もあるとのことで、目標は、3歳秋のチャンピオンシップのボーナスもかかるダービーグランプリ(10月6日・盛岡)となるようだ。一方のリンゾウチャネルは北海道に在籍したまま、前述のとおり万全の状態ではないなかでの三冠達成だっただけに、このあとは一息入れ、ダービーグランプリは回避予定。しかしその後、全国交流の楠賞(11月14日・園田)への遠征を考えているとのことだった。
ホッカイドウ競馬の2歳戦線の層が厚いのは変わらずだが、確実にレベルアップした3歳や古馬の全国区での活躍も注目となりそうだ。
斎藤修
1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。