2005年12月06日(火) 23:51 0
先週行われた阪神ジュベナイルF(GI)は、伏兵テイエムプリキュア(父パラダイスクリーク)が、4角を回ってから馬群を抜け出し、1.1/2馬身差でシークレットコード以下を抑えて見事に優勝した。単勝2260円の8番人気だったというが、これで3戦3勝。来年の活躍が期待される。
それにしても、驚くのは、テイエムプリキュアが2003年のオータムセール(当歳)にてわずか250万円で落札された馬であるということだ。このレースで3着のフサイチパンドラはサンデーサイレンス産駒。こちらは対照的に同年7月の「セレクトセール」にて8700万円で落札された高額馬だったので、その落差にどうしても目が行ってしまう。
ちなみに2着シークレットコードもまた名血である。父はFusaichi Pegasus。そして母マジックコードはアメリカG1(バレリーナBCH)など9勝を挙げているという。こちらもおそらく安い馬ではないはずだ。
さらに、4着エイシンアモーレ(父エイシンワシントン)、5着アサヒライジング(父ロイヤルタッチ)と続くが、この2頭は、それぞれオーナー自身の自家生産馬と(たぶん)仔分け馬と推測される。
まさしく、上位5頭はかなりバラエティに富んだ組み合わせとなったと言えよう。このところGIともなれば、かなり「社台色」と「サンデー色」とで掲示板が塗り固められる傾向が顕著だったが、日高の生産馬が一矢報いた形となった。
テイエムプリキュアの生産者は新冠のタニグチ牧場。母フェリアードは2勝馬で、半兄にエムアイブラン(父ブライアンズタイム)がいる。エムアイブランも同じタニグチ牧場の生産馬で、重賞4勝、フェブラリーS・2着という成績を残している。母系はそれなりの血統的背景があるとはいえ、やはり今の中央競馬においては地味な印象を拭えない。したがって当歳の時点で、竹園オーナーがこの馬の将来性を早くも見抜いていたとしたら、恐るべき審美眼と言わねばなるまい。
2003年のオータムセール当歳は、その年の10月20日に開催され、牡117頭、牝45頭の計162頭が上場された。落札はそのうちの46頭(牡34、牝12)。売却率は全体で28.39%だった。売却総額は、4億5081万7500円。牡が34頭で3億6083万2500円。牝が12頭で8998万5000円(いずれも税込み)。
この中で、テイエムプリキュアは他の1頭とともに、この市場中の最低落札価格馬だった。阪神ジュベナイルFは、元来荒れるレースとして定評があり、過去にも平成13年には、抽選馬のタムロチェリー(父セクレト、1歳時の八戸市場にて400万円で購買された)が制したことも知られている。今回のテイエムプリキュアは、その市場取引価格を大幅に下回る250万円という大記録を作ったわけで、我々日高の中小生産牧場にとっては、まことに「溜飲の下がる」結果をもたらしてくれたと言っていい。
たまにこういう「番狂わせ」が起きるのもまた競馬である。とはいえ、これが即、日高の市場振興に直結するかどうかはまた別な話ではあるのだが。そして、もう一つ気になるのは、このレースを制した馬が翌年(3歳時)も活躍する例が非常に少ないというデータがあるらしいこと。過去10年間の優勝馬のうち、翌年もGIを制覇したのはメジロドーベルとテイエムオーシャンのみだという。逆に、このレースで敗れた1番人気馬の以後の活躍ぶりは特筆すべきものがある(シーキングザパール、スイープトウショウ、ラインクラフト)そうなので、ぜひ、テイエムプリキュアにはそんなジンクスを破って欲しいと思う。
田中哲実
岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。