未登録馬250頭?

2005年12月13日(火) 23:49

 いよいよ今年も残すところあと半月あまりになった。例年ならば、そろそろ「今年一年を振り返って」などというテーマで、生産地での印象的な出来事やエピソードを紹介するところだが、こと日高に関しては、ついに年末まで明るいニュースのない年だったと思う。

 それを象徴するような文書が、先日、日高軽種馬農協より届いた。曰く「広島県馬主会への販売希望馬取りまとめについて」と題するその文書は、「1頭30万円で30頭〜50頭のサラブレッド1歳馬を広島県馬主会に販売できませんか?」という主旨である。従来、アラブ専門の競馬場として開催してきた福山競馬だが、近年、アラブ資源の枯渇とともに必要頭数の確保が困難となったため、サラブレッド導入に踏み切ったというニュースは聞いていた。また12月4日に、さっそくサラブレッドによるレースを3つ組み、早くも見切り発車のようにサラ系のレースをスタートさせていることに驚かされたばかりだったが、今度は来年実施する予定の「2歳馬競走」へ向けて、サラブレッド資源を確保したいとの意向であるという。

 ところが、なかなか入厩が進んでいないらしく、一方では、JRA認定競走枠の割り当てなども視野にあるのだろうか、早い時期に来年デビュー予定の1歳馬をある程度以上確保するために、広島県馬主会が日高軽種馬農協に協力要請をしてきたわけである。とはいえ、1頭30万円(税込み)で、しかも、血統登録証明書と健康手帳のある馬、という条件付きなのだ。

 血統登録は、普通ならば、毎年夏から秋にかけて、日本軽種馬登録協会が生産牧場を巡回し、その年に誕生した馬の登録を行う。ただし、その際に生産者が用意しなければならないのは、母馬の血統登録書と当該馬の父馬を特定する種付け証明書で、これは各種馬場が発行することになっているが、もちろん種付け料の支払いが条件である。

 ところが、実際には、種付け料の支払いにも事欠く生産者が少なくないので、当歳時に生産馬を血統登録できず、やむなく越年して1歳になってから血統登録を申請するケースが毎年かなりの数に及ぶ。

 血統登録のタイムリミットは1歳の12月31日である。昨年に生まれたサラブレッドのうち、この血統登録を済ませていない馬が、つい先日聞いた話によれば、まだ250頭ほどもいるという。広島県馬主会が求めるサラブレッドは、この血統登録を済ませている馬であることが条件なのだ。

 この250頭もの「未登録馬」のうち、これから年末にかけて、どれくらいの数が血統登録されるものか。ちなみに昨年はついに血統登録のリミットを過ぎてしまった馬が約90頭もいたという。今年はさらにそれが増えるのではないか、とは日高軽種馬農協の見解なのだが・・・。

 さて、その30万円のサラブレッド。「いったいこんな安価で、果たしてどれほどの馬が集まるものやら」と半信半疑でいたところ、いるわいるわ、申し込み締め切り日(12月12日)の午前中までに、約100頭ものサラブレッドが応募してきたという。「ほとんどが牝馬ですが、牡も何頭かいます。血統ですか?ナリタトップロードとかメイショウドトウ、メジロライアンなんていうのもいますね。予想以上の反響に驚いています」(日高軽種馬農協)

 もちろん、30万円では、生産原価どころか、種付け料にもならない。まったくの大赤字なのだ。しかし、生産者は「このまま飼育していても、売れる目処もなし、かといって食肉として処分するよりはまだましだ」と割り切って、苦渋の決断をするのである。そういう例が全部で100頭もいる、ということに衝撃を受ける。

 かくして、生産者たちは、手塩にかけて育てたサラブレッドをわずか30万円で購買してもらうために、まずは合格率2倍の難関を突破しなければならなくなった。14日から15日頃にかけて、広島県馬主会から「購買担当者」が来道し、日高軽種馬農協の職員とともに各牧場を回り「実馬検査」をする予定というが、ある生産者は「こんなことが毎年繰り返されたらとてもたまったもんじゃない。福山の存続のために支援してくれ、なんて言ってるけど、生産者をここまで踏み台にしての存続なら、そんな競馬場さっさと潰れてくれた方がましだ」と息巻く。

 むろん、協力するしないは各牧場の判断に委ねられており、あくまで自由意志だが、案外これを正月の餅代に充てようという生産者が予想以上にいるということなのだ。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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