2020年07月24日(金) 18:00
昨年は6枠から先行力を活かして外ラチ沿いを走ったライオンボスが勝利(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規
夏の名物レースとして定着した、JRA唯一の1000m重賞・アイビスサマーダッシュ。新潟直線芝1000mコースといえば2001年の創設当初から8枠有利が有名なコースだったのですが、その歴史を紐解けば、決して闇雲に8枠だけを買っておけば良いなどという単純な話ではないことを思い知らされます。
まず第一に知らなければならないのは、8枠が有利だったのは創設から最初の4年だけだったという事実でしょう。創設前には有利不利のないフラットなコースになるのではないかとも言われていた新潟直線芝1000mですが、フタを開けてみると目に見えて外枠各馬が伸びる映像ばかりが続きました。
有利不利がないどころか、明らかに外枠が有利。最初の1年で外枠有利が周知のものとなり、内枠の各馬がスタート直後から外へ外へと殺到するようになっても、それでも外枠の絶対的優位が揺るがない特殊コースだったのです。
しかしそれも2004年までのこと。創設5年目の2005年から8枠スタート馬の成績は急落し、その傾向は2015年まで11年間も続きます。その間もずっと「8枠有利説」が多くの競馬ファンの間で妄信されていたのはちょっとした驚きでもあったのですが、創設当初の8枠有利はそれぐらい強烈な出来事だったということなのでしょう。
具体的な数字を出してみても、2005年から2015年までの新潟直線芝1000mコースは、1枠を除くと ほぼフラットに近い成績。このころ8枠ばかりを買った人は割と苦い思いをしていたかも知れません。
■2005年〜2015年 新潟芝1000m 枠番別成績 1枠 510戦(15-20-30-445) 勝率3% 単勝回収 53% 2枠 527戦(33-18-20-456) 勝率6% 単勝回収 82% 3枠 532戦(34-23-25-449) 勝率6% 単勝回収123% 4枠 538戦(25-36-28-449) 勝率5% 単勝回収 53% 5枠 548戦(37-27-26-458) 勝率7% 単勝回収 51% 6枠 557戦(41-46-32-438) 勝率7% 単勝回収 76% 7枠 696戦(50-46-46-554) 勝率7% 単勝回収 81% 8枠 704戦(51-68-78-507) 勝率7% 単勝回収 71%
このまま8枠神話だけが残り、フラットな成績に収束していくかと思われた新潟直線芝1000mコースですが、2016年辺りから また風向きが変わってきます。それは創設当初を超えるほどの、強烈な8枠有利傾向。2001年から2004年までを第一期、2005年から2015年までを第二期と考えて、2016年以降の新潟直線芝1000mは第三期(サードステージ)に入ったと考えるべきなのかも知れません。
■新潟直線 芝1000mの 8枠成績 第一期 277戦(27-18-28-204) 勝率10% 単勝回収155% 第二期 704戦(51-68-78-507) 勝率 7% 単勝回収 71% 第三期 278戦(34-23-25-196) 勝率12% 単勝回収113% ※第三期は2020年7月20日現在
18年は8枠のダイメイプリンセスが勝利(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規
この傾向は8枠のみならず、7枠に関しても同様の傾向が見られるだけに、今後しばらくは(外枠有利が万人に知れ渡っているとしても)再び7枠、8枠を重視して予想を組み立てて行くべきなのでしょう。
■新潟直線 芝1000mの 7枠成績 第一期 272戦(18-20-19-215) 勝率 7% 単勝回収123% 第二期 696戦(50-46-46-554) 勝率 7% 単勝回収 81% 第三期 271戦(23-28-21-199) 勝率 9% 単勝回収103% ※第三期は2020年7月20日現在
このように、競馬データには見かけ上の値『現状値(Current value)』と、最終的に収束すべき値『収束値(Convergence value)』があるはずで、現状値と収束値は必ずしもイコールの関係ではないことに注意すべきです。特にサンプルの少ないデータや理由が説明できない不思議データは現状値と収束値がかけ離れている可能性も低くはありません。高回収率で飛びつきたくなるその数値、それは収束値ではなく、偶然が産んだ現状値なのかも知れませんよ。
ウマい馬券では、ここからさらに踏み込んでアイビスSDを解析していきます。印ではなく『着眼点の提案』と『面倒な集計の代行』を職責と掲げる、岡村信将の最終結論に ぜひご注目ください。
■プロフィール 岡村信将(おかむらのぶゆき) 山口県出身、フリーランス競馬ライター。関東サンケイスポーツに1997年から週末予想を連載中。自身も1994年以降ほぼすべての重賞予想をネット上に掲載している。1995年、サンデーサイレンス産駒の活躍を受け、スローペースからの瞬発力という概念を提唱。そこからラップタイムの解析を開始し、『ラップギア』と『瞬発指数』を構築し、発表。2008年、単行本『タイム理論の新革命・ラップギア』の発刊に至る。能力と適性の数値化、できるだけ分かりやすい形での表現を現在も模索している。
1995年以降、ラップタイムの増減に着目。1998年、それを基準とした指数を作成し(瞬発指数)、さらにラップタイムから適性を判断(ラップギア)、過去概念を一蹴する形式の競馬理論に発展した。『ラップギア』は全体時計を一切無視し、誰にも注目されなかった上がり3ハロンの“ラップの増減”のみに注目。▼7や△2などの簡単な記号を用い、すべての馬とコースを「瞬発型」「平坦型」「消耗型」の3タイプに分類することから始まる。瞬発型のコースでは瞬発型の馬が有利であり、平坦型のコースでは平坦型に有利な流れとなりやすい。シンプルかつ有用な馬券術である。
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