浦河神社、騎馬参拝

2006年01月10日(火) 23:50

 新春1月2日、今年で96年目を迎える恒例の伝統行事「浦河神社騎馬参拝」が行われた。穏やかに晴れた元旦とはうってかわり、この日の浦河は深夜から降り続いた雪が午前9時頃には一度止んだものの、どんよりとした曇り空に覆われるあいにくのコンディション。そして騎馬参拝の始まった午前10時半頃には、雪ならぬ雨さえ降り出す悪天候となった。ただし、その分、気温は久々にプラスまで上昇し、寒気が緩んだ。

 今回参加したのは、JRA日高育成牧場、浦河町乗馬クラブ、ポニー少年団などの総勢22騎。内訳は乗用馬8頭とポニー14頭という構成である。

 乗用馬はJRA日高育成牧場から6頭、浦河町乗馬公園から2頭が参加。約1時間かけて一般道を浦河神社へと向かう。先月以来、例年より寒くしかも雪が多かったため、この日は騎馬行進に先立ち早朝より何台ものダンプと作業員が動員され、路上に滑り止めの砂を散布する光景が見られた。蹄鉄を装着した馬の脚は凍結したアスファルト路面が苦手である。人馬転などのアクシデントが発生するととんでもない大事故につながりかねない。まずは「安全第一」が基本姿勢なのである。

 騎乗したまま延々と一般道を走ってくる乗用馬が浦河神社に到着するまでの間、ポニー組は大型馬運車に乗せられ、一足先に出発する。そして、神社に近い海岸通りで下ろされ、そこで山越えしてくる乗用馬を待つ。

 ポニーに乗るのは小学生である。今年の最年少は小学校2年生の広瀬楓ちゃんと木村拓己君の二人。ともに石段駆け上がりは「初体験」で、そのために年末から特訓を重ねてきた。二人とも草競馬に騎手として出場するほどの腕前だが、落差のある石段を騎乗したまま上がるのはかなり勇気が必要なのだ。

 やがて、山越えしてきた乗用馬の一団が到着すると、その隊列の後方にポニー軍団が続く。そして市街地を総勢22頭が神社へと向かう。いよいよ、騎馬参拝のハイライトである石段駆け上がりがその後始まる。

 この日、神社には300人ほどの初詣客が集まり、人馬の到着を待っていた。午前10時半過ぎ。最初は乗用馬から101段の石段を駆け上がった。騎乗者は上体を前傾させ、一気に上の社殿まで行く。次々と乗用馬たちが駆け上がり、馬上から賽銭を投げ入れて簡単に参拝を済ませ、そしてゆっくりとまた石段を降りて行く。むしろ上りよりも、下りの方がずっと大変だ。

 101段というのは、実際に上から下方を見るとかなりの標高差である。まして騎乗したままならばよけいに恐怖感を覚えるはずだ。それは馬とて同じことで、今年も石段を降りたくないとだだをこねる馬が何頭もいた。さすがにそういう時は人間が傍に付き添い、恐怖感を和らげながら介助してやる。もっとも緊張するのがこの下りの場面である。

 続いてポニー14頭が次々と石段を上がり、そして全馬今年も無事に下り終えた。明治末年より始まったというこの騎馬参拝は、もうすぐ100周年を迎える。毎年、交通規制や安全対策などを巡り地元警察署と何度も打ち合わせを繰り返すのだが、一般道を通ることと、一般の参拝客が多数見守る中での伝統行事だけに難問山積なのだ。狂奔した馬が観客スペースに突進してしまう可能性もないとは言えず、毎年冷や汗をかきながら石段の駆け上がりを見つめる関係者が多い。

 とはいえ、「ここまで続いた伝統行事をいまさら簡単には止められない」との思いも等しくある。起源は明治43年というが、もしそれが本当ならば、2010年にちょうど100周年を迎える。ここまで来たらまずそれを目標に頑張ろう、という声が終了後の打ち上げでもたくさん聞こえていた。伝統行事を守り継続することはなかなか苦労が多いのである。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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