真冬のばんえい競馬

2006年02月07日(火) 23:51 0

 先週、帯広競馬場に行ってきた。日高から帯広までは国道236号の通称「天馬街道」を走るのが一般的なルートである。日高山脈を貫く野塚トンネルを抜けると、もうそこは十勝地方だ。所要時間は浦河からだと約2時間程度。道路が空いているので、天候にさえ恵まれたら走りやすい。

 午前10時半、帯広競馬場に到着。晴天でも気温は-7度。この時期の帯広はかなり寒い。ただし積雪量は少なく、むしろ日高の方が多いかも知れないと感じた。

 まだ第1レースまでは間があり、駐車場も空いている。写真を撮るため、カメラを担いで入場門に向かう。低い気温と北風のことを考えて、私自身は相当な厚着をして行ったが、地元のファンは思ったよりもずっと軽装である。セーターにジャンパーを羽織っただけで帽子や手袋などという用意をしていない人が多い。寒さに強いのか、それとも他に訳があるのか。やがてその理由が明らかになった。

 冬の帯広は、スタンドに陣取るファンは皆無と言っていい。ただでさえ気温が低いのに加え、スタンドから馬場を望む方角は(たぶん)北方になるため、終日日陰なのだ。しかも大きく張り出した屋根に遮られて、よけいに太陽光線が当たらないのである。入場者のほぼ全員が建物の中でレースの始まるのを待つ。そしてファンファーレとともに、スタンドに出て、レースが終わるとまたすぐに引っ込む。その繰り返しである。

 スタンドの中は、大型のジェットヒーター(工事現場などで使用する)が主たる暖房機器だ。競馬場の建物が古いのと、全体の空調設備となれば途方もない資金が必要になるわけで、さしあたりこの方法しかないのだろう。30mに1基程度の割合でこのヒーターが置かれ、その周辺を中心に人垣が出来ている。暖房機器から少し離れると、建物の中でもやはり寒い。ファンの多くは中高年で、女性の比率は低く、ほとんどが男性である。そのためか、発売窓口はマークシートよりも口頭で購入するところの方が人気が高いように見えた。(このあたりは他の地方競馬とそう大差ないのかも知れないが)

 予想新聞は2紙。以前(もう何年も前だが)はガリ版刷りの予想紙も売っていたが今は「ホースニュース馬」と「競馬ブック」だけである。

 第1レースの発走は午前11時。全12レースが組まれ、午後5時まで、ほとんど同じ間隔を置いてレースが行われる。昼休みといった特別な時間帯は設けていない。

 出走頭数は各レース9~10頭とキッチリ分けられている。1着賞金は15~18万円がほとんどで、10レースと11レース(重賞や特別が組まれている)だけがやや高い。と言っても、私が訪れた日のメーンは「きさらぎ特別」で1着賞金は55万円だった。ちなみに、賞金比率は1着が100と仮定すると、2着25、3着12、4着8、5着5という割合になる。いわゆる「150%方式」である。

 馬券売り上げの減少はばんえい競馬とて例外ではなく、内実はかなり厳しいと聞く。おそらく賞金や出走手当てなども全盛期から比較すると半分以下に落ち込んでいるはずで、大型馬に十分な飼料を与えるだけで預託料の大半が消えてしまうのではないか、とも思う。どうやってやりくりしているものか、もう少し賞金が高くならなければ、馬主はもちろんのこと厩舎の台所もかなり苦しいだろう。

 出走資格馬(在厩馬?)は全部で777頭。うち、3歳は246頭である。
1開催6日間で、基本的には毎週土日月の3日開催というローテーション。前回の第5回帯広競馬は1月21日~30日にかけて開催され、6日間で計697頭が出走した。1開催に2度出走する馬も多く、とにかく賞金の安さを出走回数で補わざるを得ない状態なのだと思う。

 現在は1日1億円を売り上げることが難しくなっている。土日月の3日間のうち、1億円を超えるのは日曜日だけで、土曜日と月曜日は苦戦を強いられる。厳冬期のためか、入場人員は本場だけで言うと千人前後。日曜日や重賞の組まれている日などはやや多いようだが、それでも2千人には達しない。

 ばんえい競馬の魅力を言葉で伝えるのはなかなか難しいのだが、強いて言うならば「重いそりを引く大型馬の力強さと躍動感」だろうか。第2障害を越える前に、どの馬もコース上で立ち止まり、息を整える。それからおもむろに登坂に挑む。間近で見ると、平地競馬とはまったく異なる醍醐味を感じる。そして、帯広のばんえい競馬は12月から3月までの開催で、間違いなく「日本一寒い競馬場」である。津軽の「地吹雪体験ツアー」のように、逆の発想でこれを何とか売り物にできないものか。

 東京映画祭で、ばんえい競馬をテーマにした「雪に願うこと」が最優秀作品賞など4冠に輝いた。また昨年末には、ばんえい競馬史上初の女性調教師(谷あゆみさん)も誕生した。こうしたことが「追い風」になることを祈りたい。

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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