キャンセル待ちのイライラ

2021年07月08日(木) 12:00

 東京オリンピックが近づいてきた。公式サイトのカウントダウン表示を見ると、本稿を書いている時点であと16日少々となっている。開会式が7月23日(金)なのだから、私にとって2年ぶりの相馬野馬追取材への出発までも16日少々、ということか。いや、サッカーやソフトボールなど一部の競技は21日(水)から行われるので、実質的にはあと2週間でオリンピックが始まるわけだ。

 オリンピック期間中、首都高の料金が昼間は1000円高くなるという。南相馬に行くには首都高を通らざるを得ない。深夜0時から4時まではETC車両に限り半額になるというが、トータルではおそらく、上乗せして徴収される分のほうが多くなる。その差額はどこに行くのか。セコい私としては、納得したうえで払いたい。

 さて、本稿をお読みの方のうち、どのくらいの方がワクチン接種を終えただろうか。私の周りでも、65歳以上の人は2回とも、それより下の世代でも1回目のワクチン接種を終えた、という人が多くなってきた。

 私も、先週の終わりに接種券は届いたのだが、一番後回しになる世代なので、まだ予約は取れていない。できれば、1回だけでも打ってから相馬野馬追取材に行きたいので、今、キャンセル待ちをしている。

 私は普段、原稿を書いているときや寝ているときは、携帯電話をサイレントマナーモードにしている。固定電話も取らない。あとで着信を見て、折り返し電話をかけている。

 しかし、今だけは、午後3時から5時の間だけ、着信音も鳴るようにしてある。キャンセルが出たら、その2時間のどこかで電話が来ることになっているからだ。自宅兼仕事場で、原稿を書きながら待っているのだが、それがどうにも落ちつかない。

 こう書いているということは、まだ順番が回ってきていないわけで、おまけに、そういうときほど、来なくてもいい電話が来る。携帯電話会社から、住まいのネットとのパックプランの営業電話がかかってきたときは、さすがに文句を言った。「料金やプランのことで」と切り出しておきながら、まず、「お宅のネット環境はどうなっているのか」と質問してきた。私は、「料金やプランと言ったのだから、最初に料金の話をするべきだろう」と、電話を切った。まとめると割安になると言いたいのだろうが、安いか高いかの基準は彼らが決めたものなのに、それを「お得」と表現するのが嫌らしいし、そもそも、先に金の話をするやり口が気に食わない。

 電話を切ってから、校正担当者とのやり取りを思い出した。

 例えば、「アーモンドアイ、クロノジェネシスという新旧の女王」という表現は、これでいいのか。プロの校正者なら、必ず、「新旧」なのだから、「新」のほうを先に記してはどうか、と指摘してくる。「クロノジェネシス、アーモンドアイという新旧の女王」としたほうがいいのではないか、と。

 これはしかし、若いクロノジェネシスのほうを先に書くのは不自然だし、「新旧」というのは、順番など関係のないひとつの単語なので、ママでもいいというか、ママのほうがいいのかもしれない。それにこれは、その文章のほかの部分で、2頭のどちらについて先に書くかにもよる。

 もう少しいい例はないか。

 例えば、「正誤」なら正しいほうを、「先輩・後輩」なら先輩の名前を先に書く。あるいは、上に私は「安いか高いか」と書いたが、そのあとに具体的な金額を書く場合は安いほうから書く、などか。

 ともかく、私は今日も、スマホのサイレントマナーを解除して、キャンセル待ちをつづける。

 今年2月の地震で被災した福島競馬場で、無観客ながら、今年初めての開催が無事に行われた。今、場長をしている藪政勝さんは、グリーンチャンネル時代からよく知っている人なので、藪さんの笑顔を思い浮かべると、私まで嬉しくなってくる。

 競馬が開催されると、ホテルも飲食店もタクシー会社もバス会社も活気づくのが、福島という街だ。

 それだけに、有観客での開催が待ち遠しいだろう。私も、地元の人たちは福島ならではであることに気づいていないらしい、つゆだくの煮物を、競馬場の帰りに早く食べたい。

 思い出すと、腹が減ってきた。

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島田明宏

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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