個性が垣間見える若手騎手の戦い

2021年07月28日(水) 18:00

夏の佐賀で若い力が爆発しました。

若手騎手たちによる戦い・ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)が7月20日のトライアルラウンド(TR)佐賀から開幕。11月24日TR浦和まで予選が続き、上位の得点を得た4競走分の合計得点によりファイナルラウンド出場者が決まるのですが、開幕ラウンド2戦を制したのは西谷凜騎手(JRA)と飛田愛斗騎手(佐賀)のデビュー1年目のジョッキーたちでした。

まだまだ馴染みの薄いデビュー間もないジョッキーたちですが、レース前後の行動に彼らの個性が表れていました。若手ジョッキーたちの「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。

デビュー1年目ながら、騎手人気する新人

 いま、佐賀競馬に「スーパーゴールデンルーキー」と称される新人ジョッキーがいます。

 飛田愛斗騎手、18歳。

 昨年10月にデビューし、初勝利こそデビューから35戦目と今にして思えばやや時間がかかりましたが、そこからみるみるうちに勝ち星を量産。重賞も、たんぽぽ賞をイロエンピツ(JRA)で制覇したのを皮切りに、ドラゴンゲートとのコンビでは重賞2勝を挙げると、6月27日、史上最速で通算100勝を達成しました。

 これまでの最速記録は地方・金沢競馬所属の吉原寛人騎手で、デビューから275日。「天才」と称される御神本訓史騎手(大井、デビュー時は益田※廃止)でも358日、安藤勝己騎手(当時笠松)も480日を要した中での記録更新でした。

 今年で5年目を迎えるYJSは、ひと言で言うと減量騎手による戦い。デビュー5年未満で通算100勝以下のジョッキーたちが、技術や経験を積みながらステップアップを目指すシリーズです。

 飛田騎手の場合は、今年がYJS初出場なのですが、すでに105勝を挙げているため来年は出場資格がなく、今年が最初で最後のYJS。

 そうした中、迎えたTR佐賀第1戦では先行馬に騎乗しながらも、逃げ争いが激しくなるのを見て冷静に控え、早め先頭からの勝利。

馬ニアックな世界

▲冷静なレース運びで、早め先頭から堂々の勝利。飛田騎手からはガッツポーズが

 スーパーゴールデンルーキーの愛称そのままに、冷静なレース運びでした。

 なぜ、デビュー1年目の新人ジョッキーが落ち着いた騎乗をできるのかには、デビュー間もない頃の師匠からの教えがありました。

 以前、こちらのコラムでもお伝えしたのですが、所属厩舎の三小田幸人調教師が「早く勝つことよりも、なんで負けたのかレース内容をしっかりと振り返ることが大切」との教えがあったからでした。

 さらに、ホッカイドウ競馬から期間限定騎乗でやってきていた石川倭騎手の影響も受けるなどし、中身が伴いながらの史上最速100勝だったのです。

 YJS勝利後には共同インタビューが実施されました。

 まだあどけなさが残るものの、受け答えはシンプルにキリッとしたもの。テコンドーを習っていたことからくる凛々しさかもしれません。

馬ニアックな世界

▲史上最速で通算100勝を達成した飛田愛斗騎手(佐賀)

 TR佐賀第2戦は1番人気に支持されながらも最下位の12着でしたが、おそらくこれは「飛田人気」による1番人気。地元のカメラマンも「飛田騎手が乗ると人気するんですよねぇ」と。

 JRAでは「武豊人気」や「ルメール人気」というような、馬の実績以上に人気を背負うことがありますが、佐賀では早くもデビュー1年目のジョッキーが騎手人気をしているようです。

馬によく喋りかけるタイプの西谷凜騎手

 “飛田人気”をしていたTR佐賀第2戦を制したのは西谷凜騎手(JRA)でした。

 返し馬で状態の良さを感じ、馬の力を信じた強気のロングスパートを決めた西谷凜騎手。

馬ニアックな世界

▲角田大和騎手(左、ピンク帽)との接戦を制した西谷凜騎手(右、橙帽)

馬ニアックな世界

▲1着でゴールの瞬間は喜びの声が響きました

 父は障害レースで活躍する西谷誠騎手(JRA)で、現役騎手の父から「競馬オタクやな」と言われるほど小学生の頃から競馬大好き少年でした。

 小学5年生から乗馬を習い始めると

「ただ競馬が好きなだけだったのが、馬への愛情がすごく芽生えました。馬は喋ってくれないんですけど、自分の中ではしっかり会話が成立しているつもりで、馬にすごく喋りかけるんです。はたから見たら変な奴ですよね(笑)。ジョッキーになった今も、乗っている時も馬から降りている時も、馬に結構声をかけるタイプです」

 馬に喋りかけたり、スキンシップをよく取るジョッキーで思い浮かぶのは、酒井学騎手。

 パドックで騎乗すると馬の首筋を撫で、ゲート裏の輪乗りではお尻を撫でるなどして馬とコミュニケーションを取っています。

 それについて酒井騎手は

「体のどこを触ったら嫌がるかなどリアクションを確かめるためにも触っています」

 と理由を説明します。

 西谷凜騎手も「酒井騎手はすごく馬が好きなんだろうな、と感じますし、酒井騎手だからこそハクサンムーンも乗れたのかなと思います」と尊敬のまなざしを送ります。

 だからでしょうか、西谷凜騎手はTR佐賀第2戦を勝って引き上げてくると、何回も騎乗馬の首筋を撫で、笑顔で声をかけていました。

馬ニアックな世界

▲引き上げてきて騎乗馬のポートフィリップの頭を撫でる西谷凜騎手

「趣味は競馬」と言うくらい、本当に馬と競馬が好きなんだなぁと改めて感じたワンシーン。

 今年のYJSはJRAも地方もTRは4レースしか騎乗しないジョッキーがいるため、勝利を挙げることでファイナルラウンド進出が大きく近づきます。

馬ニアックな世界

▲第1戦も2着で、大きくポイントを加算し、JRA西日本暫定1位の西谷凜騎手

 次回のTRは8月9日高知。

 ここでは永島まなみ騎手(JRA)と佐々木世麗騎手(兵庫)の女性騎手対決も実現する予定です。

 ぜひ若手ジョッキーたちの戦いにも熱い声援を送っていただければと思います。

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大恵陽子

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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