来春の欧州牡馬クラシック戦線を占う上で重要な“出世レース”

2021年09月15日(水) 12:00

過去10年ナショナルS勝ち馬の半数が翌年G1を制覇

 来年春のヨーロッパ3歳牡馬クラシック戦線を占う上で、きわめて興味深い攻防が展開されたのが、12日にアイルランドのカラ競馬場で行われた、G1ナショナルS(芝7F)だった。

 アイルランドにおける2歳牡馬チャンピオン決定戦的位置付けにあると同時に、過去10年の勝ち馬のうち半数の5頭(11年のパワー、12年のドーンアプローチ、14年のグレンイーグルス、16年のチャーチル、19年のピナトゥボ)が、翌年の春〜夏にイギリス、アイルランド、フランスのいずれかでG1制覇を果しているのがナショナルSである。

 その「出世レース」で今年、オッズ1.62倍という圧倒的1番人気に推されていたのが、エイダン・オブライエン厩舎のポイントロンズデール(牡2父、オーストラリア)だった。

 今年のG1サンクルー大賞(芝2400m)勝ち馬ブルームの全弟にあたり、1歳秋にタタソールズ・オクトーバーセールにて57万5千ギニー(当時のレートで約8517万円)で購買されたのがポイントロンズデールだ。今年6月2日にカラのメイドン(芝7F)でデビュー。ここを5.1/2馬身差で快勝して緒戦勝ちを飾ると、破竹の快進撃がスタート。

 続いて出走したロイヤルアスコットのLRチェシャムS(芝7F)も勝って連勝を飾ると、レパーズタウンのG3タイロスS(芝7F)も3馬身差で制して重賞初制覇。さらに、8月21日にカラで行われたG2フューチュリティS(芝7F)も4.1/4馬身差で制し、既にして「世代最強」との評価を確立していたのがポイントロンズデールだった。

 来春のクラシックで、そのポイントロンズデールのライバルになると目されていたのが、ロイヤルアスコットのLRチェシャムSで同馬に1/2馬身及ばぬ2着に惜敗した後、ニューバリーの条件戦(芝7F)、サンダウンのG3ソラリオS(芝7F)をいずれも4馬身差で快勝していた、英国調教馬リーチフォーザムーン(牡2、シーザスターズ)だった。

 ところが、前日の11日にドンカスターで行われたG2シャンパンS(芝7F)で、そのリーチフォーザムーンが、オッズ1.62倍の1番人気を裏切り2着に敗退。2022年4月30日にニューマーケットで行われるG1二千ギニー(芝8F)へ向けた前売りで、ポイントロンズデールは、オッズ10倍を切る抜けた1番人気に支持されることになった。

 そういう状況で迎えたG1ナショナルSだったのだが、道中2番手を追走したポイントロンズデールは、残り500mで先頭に立ったものの、そこから近2走で見せていた圧倒的な脚力を発揮することが出来ず、道中は4番手にいた2番人気(4.5倍)のネイティブトレイル(牡2、父オアシスドリーム)がゴール前で伸びて来ると、ほとんど抵抗できずに2番手に後退。残り150mで先頭に立った後、さらに目覚ましい末脚を見せたネイティブトレイルが、最後はポイントロンズデールに3.1/2馬身という決定的な差をつけ、勝利を収めることになった。

 母ニードルリーフの全姉に、ヘイドックのG1スプリントC(芝6F)勝ち馬アフリカンローズや、ロンシャンのG1マルセルブーサック賞(芝1600m)2着馬ヘレボリーンがいるというファミリーを背景に持つのがネイティブトレイルだ。

 タタソールズ・オクトーバーセールにて6万7千ギニー(当時のレートで約986万円)で購買された後、今年4月にニューマーケットで開催されたタタソールズ・クレイヴン2歳セールに上場され、ここでゴドルフィンに21万ギニー(当時のレートで約3408万円)で購買されている。

 チャーリー・アップルビー厩舎から、今年6月にデビュー、サンダウンのメイドン(芝7F)を4馬身差で制して緒戦勝ちを飾ると、続いて出走したニューマーケットのG2スーパーレイティヴS(芝7F)を短頭差でモノにし、無敗の2連勝で重賞初制覇を達成。その後は、ここに照準を絞って調整されていた。

 そのG1ナショナルSで、ネイティブトレイルが鮮烈なパフォーマンスを見せたことを受け、ブックメーカー各社はG1英二千ギニーへ向けた前売りオッズを直ちに修正。無敗の3連勝でG1初制覇を果たしたネイティブトレイルを、オッズ4.5〜6.0倍の抜けた1番人気に支持することになった。

 同馬の次走は、10月9日にニューマーケットで行われる、イギリスにおける2歳牡馬チャンピオン決定戦的位置付けにある、G1デューハーストS(芝7F)の予定だ。英二千ギニーと同コースで行われるデューハーストSで、ネイティブトレイルがどんなパフォーマンスを見せるか。大きな注目が集まっている。

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合田直弘

1959年(昭和34年)東京に生まれ。父親が競馬ファンで、週末の午後は必ず茶の間のテレビが競馬中継を映す家庭で育つ。1982年(昭和57年)大学を卒業しテレビ東京に入社。営業局勤務を経てスポーツ局に異動し競馬中継の製作に携わり、1988年(昭和63年)テレビ東京を退社。その後イギリスにて海外競馬に学ぶ日々を過ごし、同年、日本国外の競馬関連業務を行う有限会社「リージェント」を設立。同時期にテレビ・新聞などで解説を始め現在に至る。

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