ヤングジョッキー優勝の飛田愛斗騎手ってどんな人?

2022年01月11日(火) 18:00

昨年末の12月27日大井競馬場、28日中山競馬場で行われたヤングジョッキーズシリーズ(YJS)ファイナルラウンドは地方競馬・佐賀所属の飛田愛斗騎手が総合優勝を果たしました。すでにJRAで重賞制覇を遂げるなど活躍する若手騎手がいる中で、九州から来た19歳の優勝に、その素顔が気になった方もいらっしゃるかもしれません。

熊本県阿蘇市で生まれ育ち、佐賀に拠点を置く飛田騎手ですが、実は「日本記録」を2つも持つ若手騎手。これからブレイクが期待される飛田騎手の「ちょっと馬ニアックな世界」を覗いてみましょう。

デビューのきっかけは叔父の居酒屋!?

 飛田騎手がジョッキーを志したきっかけは、父と佐賀競馬場にレースを見に行ったことでした。目の前を馬とともに駆け抜けるジョッキーや、レースの迫力を間近で感じ「カッコいい!」と騎手を志しました。ここまでは他の騎手でもよく聞くパターン。やはり、競馬場で実際にレースを見て、それに魅了されてジョッキーに憧れる人は多いのだなと感じます。

 しかし、飛田騎手はここからが個性的な経緯を持っています。佐賀県鳥栖市にある佐賀競馬場は「佐賀」と名がつきますが、福岡との県境に近く、隣接する福岡県久留米市で居酒屋を経営しているのが飛田騎手の叔父。焼き鳥が名物のそのお店の常連には佐賀競馬の調教師など関係者がいました。

「うちの甥っ子がジョッキーになりたいって言っているんです」

 叔父がある日、佐賀競馬の関係者たちにこう相談したことで人生の歯車が大きく動きました。それならば、と手を挙げたのが現在所属する三小田幸人調教師。中学卒業後、三小田厩舎で厩務員として働いたのちに地方競馬教養センターに入所したのでした。

 三小田調教師は騎手出身。飛田騎手のデビューに合わせて、「指導しないかんけん」と指さし棒を買ってくると、毎レースパトロールビデオを見ながらアドバイスをたくさん送っていました。

 デビュー直後に書いたこちらのコラムの取材に佐賀競馬場に行った時もまさにレース直後で指導中。デビュー2週目にしてその光景はお馴染みになっていたようで、三小田調教師を探していると、関係者たちから「いまパトロールビデオの前で熱血指導中です」と教えられたこともありました。
馬ニアックな世界

▲デビュー直後の飛田愛斗騎手(右)と三小田幸人調教師。三小田調教師の手には指さし棒が

 だからでしょう。初勝利まで35戦を要し、決して早い初勝利とはいえませんでしたが、そこからどんどん勝ち星を積み上げていきました。勉強でも基礎がきちんとできていると、応用問題もどんどん解けるようになるように、競馬の世界でも基礎の大切さを改めて感じました。

 三小田調教師もデビュー当初から「初勝利は焦らなくてもいいです。それよりも、なんで負けたのかをしっかり考えて、次のレースに生かすことが大切です。勝つことよりも、位置取りやコーナーの回り方などを学んでいかないといけません」と話していました。

 初勝利の早さとその後の活躍は必ずしも比例しない、という意見はJRAの調教師からも聞かれます。かつてマヤノトップガンやキングヘイローを管理した坂口正大元調教師は浜中俊騎手の師匠でもあるのですが

「浜中騎手は初勝利がデビューから1カ月経った4月で、同期の中では遅い方だったんです。でも、彼には『焦るな』とずっと言っていました。結果的にデビュー年は新人賞を獲った藤岡康太騎手に次ぐ20勝を挙げましたし、2012年にはJRAのリーディングも獲らせてもらいました。これからずーっとジョッキー人生は続くから、最初の1勝が早いか遅いかはそんなに関係ありません」

 と話していました。飛田騎手もベテラン騎手に混じって多くの勝利を挙げ、昨年6月27日に史上最速となるデビューから268日で通算100勝を達成。地方競馬ではこれまで、吉原寛人騎手(金沢)が持つ275日が最速でしたが、それを塗り替えると、新人騎手最多勝記録(デビューから1年間)も更新して127勝を挙げました。

馬ニアックな世界

▲史上最速で100勝を挙げ、昨夏には坂井瑠星騎手(JRA、左上)とnetkeibaTVで若手対談を行った飛田愛斗騎手(下)

豪雨被害の叔父の居酒屋へ泥出しの手伝い

 ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)は、減量を与えられている若手騎手にのみ出場機会が与えられます。つまり、デビュー5年未満もしくは通算100勝以下の騎手。年末のファイナルラウンド出場騎手を決めるためのトライアルラウンドが始まったのは昨年7月だったのですが、飛田騎手はすでに減量を卒業していて、YJS初出場にして最後の機会、という異例の騎手でもありました。

馬ニアックな世界

▲YJSトライアルラウンド名古屋での集合写真。飛田愛斗騎手は後列左端

 騎乗馬が抽選で決まるYJSはジョッキーの腕はもちろん、騎乗馬にも左右されるのが正直なところ。それゆえ、JRAも地方競馬の騎手も、普段は活躍しているのにファイナルラウンドには進出できなかった騎手も少なからず生じてしまいます。なので、飛田騎手も騎乗馬によっては……と心配していたのですが、「スーパーゴールデンルーキー」の異名を持つ彼は、5戦1勝2着1回3着1回でファイナルラウンド出場を決め、12月27日大井第2戦と28日中山第2戦を勝ち、総合優勝に輝いたのでした。

馬ニアックな世界

▲YJSファイナルラウンド大井第2戦目をレディグレイで勝利(c)netkeiba.com、撮影:高橋正和

馬ニアックな世界

▲YJSファイナルラウンド中山第2戦目をマーキュリーセブンで勝利(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規

馬ニアックな世界

▲表彰式の様子(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規

 しかし、「勝って兜の緒を締めよ」とはよく言ったもので、年明け早々、騎乗停止処分を受けてしまいました。一方で、心優しい面も持っていて、昨夏、九州を襲った豪雨で久留米市にある叔父の居酒屋も床上浸水で大変な被害を被った際には、全休日に泥をかき出す作業を手伝いに行っていました。

 明日12日まではレースに乗れませんが、しっかり反省したら、またワクワクする騎乗を見せてくれることを期待しています。

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大恵陽子

競馬リポーター。競馬番組のほか、UMAJOセミナー講師やイベントMCも務める。『優駿』『週刊競馬ブック』『Club JRA-Net CAFEブログ』などを執筆。小学5年生からJRAと地方競馬の二刀流。神戸市出身、ホームグラウンドは阪神・園田・栗東。特技は寝ることと馬名しりとり。

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