2022年03月22日(火) 18:00
ビーアストニッシドが勝利(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規
netkeibaにある膨大な競走成績を人工知能によって機械学習するAiエスケープを開発したAIマスター・Mと、レースデータの分析を専門とする競馬評論家・伊吹雅也による今週末のメインレース展望。コンピュータの“脳”が導き出した注目馬の期待度を、人間の“脳”がさまざまな角度からチェックする。
(文・構成=伊吹雅也)
AIマスターM(以下、M) 先週はスプリングSが行われ、単勝オッズ7.0倍(5番人気)のビーアストニッシドが優勝を果たしました。
伊吹 スタート自体は決して良くなかったのですが、すぐに二の脚がついて先頭のポジションを確保。最内枠だっただけに、ここで少しでもモタついていたら厳しい競馬になったと思います。ただ、その後のレース運びはお見事。3〜4コーナーで差を詰めてきた2番手のアライバル(2着)を直線入り口で突き放し、ゴール前での追い比べもギリギリのところで制しました。アライバルとC.ルメール騎手も素晴らしい競馬をしていた分、ビーアストニッシドの強さや岩田康誠騎手の手綱捌きがより引き立った形です。
M ビーアストニッシドは重賞初制覇。ここ3戦は惜敗続きだったものの、皐月賞トライアルで念願のタイトル奪取となりました。
伊吹 現3歳世代でJRAの重賞を4走以上している馬は、現在のところアネゴハダ・スタニングローズ・トーセンヴァンノ・ナムラクレア・ビーアストニッシドの5頭だけ。近年は2〜3歳重賞をあまり積極的に使わない馬が増えていて、予想のし甲斐に欠けるメンバー構成となってしまうレースも少なくありません。それだけに、ビーアストニッシドが重賞を使い続ける中で力をつけ、皐月賞前に重賞勝ちという結果を残せたのは喜ばしいこと。こういう使い方をする馬がもう少し増えて、2〜3歳重賞を盛り上げてほしいと思っています。
M ビーアストニッシドには京都2歳S2着の実績がありますし、2000mの距離はまったく問題なさそう。皐月賞も楽しみですね。
伊吹 本番も展開ひとつでしょう。仮に好走できなかったとしても、実績のわりに人気が集まりにくいタイプですから、そのうちまたどこかで穴をあけてくれるはず。しばらくの間は目が離せません。
M 今週の日曜中京メインレースは、上半期の最強スプリンター決定戦と位置付けられている高松宮記念。昨年は単勝オッズ6.0倍(2番人気)のダノンスマッシュが優勝を果たしました。その2021年は3連単の配当が9770円にとどまったものの、2020年は3連単21万7720円、2019年は3連単449万7470円と、それぞれ高額配当が飛び出しています。
伊吹 荒れた年も少なくないとはいえ、上位人気馬はそれなりに堅実なんですよね。
M 人気順で3番手くらいまでの馬は素直に信頼した方が良さそうです。
伊吹 ただ、単勝4〜6番人気馬の3着内率が13.3%にとどまっている点は気掛かり。単勝7〜10番人気の馬が2012年以降[1-1-2-36](3着内率10.0%)でしたから、中位人気馬と下位人気馬の間にはそれほど大きな差がないと見て良いでしょう。中途半端な人気の馬をどう扱うかが買い目作りのポイントになるかと思います。
M そんな高松宮記念でAiエスケープが指名した特別登録時点の注目馬は、トゥラヴェスーラです。
伊吹 ……ちょうど「中途半端な人気」になりそうな馬を挙げてきましたね(笑)。単勝3番人気以内の支持を集める可能性は低いと思いますが、妙味ある伏兵として狙っている方は多いのではないでしょうか。
M トゥラヴェスーラは前走の阪急杯と2走前の京王杯SCで2着に好走。2021年の高松宮記念でも勝ったダノンスマッシュから0.2秒差、3着のインディチャンプとは3/4馬身差の4着に健闘しています。重賞未勝利の7歳馬ではあるものの、それなりに注目を集めそうです。
伊吹 こういう馬の位置付けははっきりさせておきたいところですね。Aiエスケープが高く評価していることを踏まえたうえで、好走馬の傾向とこの馬のプロフィールを照らし合わせていきましょう。
M まず、馬齢が7歳である点はどう見ていますか?
伊吹 レースの傾向からは割り引きが必要ですね。2012年以降の3着以内馬30頭中、馬齢が7歳以上だったのは2015年1着のエアロヴェロシティのみでした。
M 7歳以上の国内調教馬は、10年間ずっと馬券に絡めていないんですね。
伊吹 一応、2011年の高松宮記念では、当時8歳のキンシャサノキセキが1着、当時7歳のアーバニティが3着となっています。ただ、さすがにここまで不振が続いている以上、高く評価するわけにはいきません。
M なるほど。では、コース適性についてはいかがでしょう。2021年の淀短距離Sを勝っていますし、昨年の高松宮記念で健闘したことを考えても、このコースは合っているように思います。
伊吹 2016年以降の過去6年に限ると、中京芝1200mにおける実績はそれほど当てにならない印象でしたが、ゴール前の直線に急坂がある中央場所のコース、すなわち中山や阪神で好走してきた馬は堅実です。
M トゥラヴェスーラは前走の阪急杯で2着に食い込んでいますから、こちらの条件には引っ掛かっていませんね。
伊吹 昨年の高松宮記念に出走した時点ではこの条件をクリアしていなかったわけですし、ある程度は高く評価すべきでしょう。
M あとはどのあたりがポイントになりそうでしょうか。
伊吹 実績と枠順ですね。同じく2016年以降の過去6年に限ると、“前年以降、かつJRA、かつGI・GIIのレース”において“着順が2着以内、かつ4コーナー通過順が3番手以内”となった経験のある馬は[4-2-2-11](3着内率42.1%)。先行力が高い実績馬は、枠順を問わず安定しています。
M トゥラヴェスーラは2走前の京王杯SCで2着となりましたが、当時の4コーナー通過順は14番手。先行力が高い馬ではありません。
伊吹 おっしゃる通りです。そして、先程挙げた条件をクリアしていなかったにもかかわらず3着以内となった10頭は、いずれも枠番が1〜4枠でした。
M はっきりと明暗が分かれていますね。
伊吹 正直なところ、私は外寄りの枠に入ったら思い切って軽視しようと考えていました。もっとも、Aiエスケープは狙い目と見ているわけですし、トゥラヴェスーラ自身の勢いや能力を考えても、買い目から外すのが怖い一頭であることは事実です。枠順やオッズを確認したうえで、もう一度この馬の取捨をじっくり検討したいと思います。
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伊吹雅也
競馬評論家。JRAの公式ホームページ内「今週の注目レース」にて“データ分析”のコーナーを、TCK(東京シティ競馬)の公式ホームページ内「分析レポート」にて重賞競走のデータ分析を担当しているほか、グリーンチャンネル、JRAのレーシングプログラム、『週刊アサヒ芸能』、『競馬王』などさまざまなメディアを舞台に活動している。主な著作に『WIN5攻略全書 回収率150%超!“ミスターWIN5”のマインドセット』、『コース別 本当に儲かる騎手大全』シリーズ、『コース別 本当に儲かる血統大全』シリーズ、『ウルトラ回収率』シリーズ(いずれもガイドワークス)など。
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