北海道と九州

2006年04月25日(火) 23:48

 去る4月24日、中山競馬場にて開催された「JRAブリーズアップセール」は、空前の好成績で幕を閉じた。この日、上場された69頭中、実に68頭が落札され、売り上げ総額は10億2222万7500円。対前年比で何と4億円近い伸びである。

 上場頭数は昨年と同様69頭(欠場11頭)。落札馬の平均価格も1503万円と、前年の1060万円から比較すると大幅に上昇したことになる。

 この好成績の原因は、まずJRAブランド効果が挙げられる。全馬のレントゲン写真と内視鏡検査の結果が公表され、情報開示が徹底していたことで購買者に、ある種の安心感と信頼感を与えられたことが大きい。そして、せり形式となった昨年の取引馬から早くもダイワパッション(重賞2勝)などの活躍馬が誕生している実績、回復しつつある景気などこの市場が活況を呈する要因はいくつもあったのだろうと思う。

 しかし、それにしても、この数字は上出来どころか、いささかヒートアップし過ぎているとさえ感じる。「こんなに売れてもいいのか」というのが率直な感想である。けちをつけるつもりは毛頭ないが、どう考えても69分の68という数字は尋常ではない。日高で日ごろよりあまり売却率の高くない市場ばかり見慣れている私には、にわかには信じがたい恐るべき売れ行きに映る。

 ところで、今回のブリーズアップセールに上場された69頭は、昨年と同様にJRA日高育成牧場と宮崎競馬場の2か所で育成された。内訳は日高が56頭、宮崎が24頭である。欠場馬11頭のうち、日高が10頭、宮崎が1頭と、圧倒的に北海道組が多かった。

 宮崎の1頭は上場番号80番のサクラバクシンオー産駒(牝)で、カタログに写真も掲載されていないことから、かなり以前から欠場が決まっていたものと推測できる。後は日高の育成馬だが、56頭中10頭というのは、秋から春に至る半年間の気候風土の違いによるところが大きいのではなかろうか。

 「成長度にやや差が出る」というのは、宮崎と日高の育成馬を比較して見て、誰しも抱く感想である。やはり、降雪がほとんどなく、いわば年中青草を食べられる温暖な南九州と、12月から2月まではほぼ真冬日(日中の最高気温が0度以下)ばかり続く北海道とでは、成長途上にあるこの時期の2歳馬にとっては、かなり大きなハンディキャップだろう。

 だが、あらかじめブリーズアップセールの日程は4月下旬に設定されているため、どうしてもそれを目標にしての調教メニューを消化して行くことになる。その過程で寒冷地なるがゆえに様々なアクシデントに見舞われるケースも出てくるのだ。

 なお、今年のブリーズアップセールの最高価格馬は「ディスクオブゴールドの04」(父マリエンバードの牡)で価格は税込み4095万円。浦河の丸幸小林牧場生産。昨年7月の「セレクションセール」にて1375万5000円で購買され、日高育成牧場で育成された。

 だが、落札価格順に並び替えてみると、ベスト20位までに日高の育成馬が11頭、宮崎が9頭と、頭数の割に宮崎の育成馬が健闘したことが分かる。さらに、宮崎からの上場馬23頭の落札金額合計は3億9259万5000円。宮崎の馬は完売だったので、これを23頭で割り算すると、平均価格は約1707万円。日高の平均価格1399万円をかなり上回ったことになる。

 日高では来月下旬にトレーニングセールを控え、調教も佳境に入る時期を迎えているが、このブリーズアップセールの結果が、今後どのように影響してくるか、各育成牧場の関係者は戦々恐々である。「もう中山で資金を使ってしまった購買者が多いのではないか」などという弱気な声すら聞こえるが、あと1か月でその答えが出る。

 5月22日は札幌競馬場で日高軽種馬農協主催のトレーニングセール、そして翌23日には浦河で、ひだか東農協主催のトレーニングセールが開催される予定である。

(なお、本稿は「馬市ドットコム」掲載のデータを引用させていただきました。詳細な市場レポートもあり、必見のサイトです)

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田中哲実

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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